08
呪い、と突然言われても飲み込めなくて、怖いとかいう以前に固まってしまった。おねえさんって幽霊とかじゃないの?
「つまり、誰かにマイナスの影響を与えるために、人間の手によって作られたものです。わたしたちよみごは違う呼び方をしますが、しかし葵さんには、呪いと言ったほうがわかりやすいでしょう」
環さんは私に言い聞かせるように、もう一度ゆっくり「呪い」と言った。
「あの……それって私が何か、誰かに呪われるようなことをしたってことですか?」
私がおそるおそるたずねると、環さんは首をふった。
「いいえ。それは葵さんにとりついているというよりは、葵さんの血筋にとりついているものなんです。ちょうどお話した、憑物筋のようにです。葵さんが何か悪いことをしたから呪われた、ということではありません」
血筋に、と言われて、思わず「よかった」とこぼしてしまった。環さんに変な顔をされたけど、本当によかったと思ったのだ。誰かにそんなに恨まれるってそれ自体が怖いことだし、それに、自分がそれほどのことを知らない間にしてしまった、というのも怖いことだ。
でも、血筋ってことは――と、私はおばあちゃんを思い出す。
「おばあちゃんも昔、おね……同じ呪いにつかれたことがあったんですか?」
私がたずねると、環さんはきゅっと眉をよせた。
「あったそうです。そのころはまだ妹尾がご相談を受けていました」
「おばあちゃんには何かあったんですか?」
環さんは「お聞きになりたいですか?」とわざわざ聞いてきた。私は「はい」と答えた。
足が痛いとか腰が痛いとかよく言っているけど、何だかんだ言っておばあちゃんは今も元気だ。呪いのことは、どうにかして切り抜けられたのかもしれない。何かヒントがあるかもしれない。そう思ったのだ。
でも、環さんが話しにくそうに言うのを聞いて、体から力がぬけそうになってしまった。
「……妹尾は、お祖母さまから力ずくで呪いをはがそうとしたようです」と、環さんは言った。「その結果、呪いはお祖母さまの妹さんに移ってしまった。それで妹さんは亡くなっています」
背筋が冷たくなった。そういえばおばあちゃんは、妹が死んでしまってから熱心にお祈りをするようになったって、前にお父さんから聞いたっけ――そんなことを思い出した。
環さんは淡々と話を続ける。
「お祖母さまが結婚して町田姓になったので、実家の山津家は絶えています。そうすれば、もう呪いは受け継がれないだろうと考えたそうです」
「でも……」
「そうはならなかった。呪いは受け継がれているんです。お祖母さまは結局、まだ小さかった娘さんを亡くしています。その後に産まれたのが葵さんのお父さまですから、葵さんはご存じないと思いますが」
環さんは言葉を切って、大きなため息をついた。
「ごめんなさい。こんな話、今するべきではなかったかもしれません。葵さんは知らずにいるほうが辛いだろうと思ったのですが、それでもこんなに急ぐべきではなかったかもしれません」
私は、環さんに何も言えなかった。
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