02
教室に行っても、ホームルームが始まっても、まりちゃんは来なかった。チャイムが鳴ると、多岐川先生じゃなくて教頭先生が入ってきた。
「多岐川先生は急病でお休みです」
みんながざわついた。急病って何だろう? 私も心配になった。
「たまたま具合が悪くなってしまったそうです。二学期にはちゃんと学校に来られる予定なので、安心してください」
そう言われてひとまずほっとした雰囲気になったけど、その日ずっと教室はざわざわした感じが消えなかった。ほかのクラスの先生が代わりばんこに来てくれたけれど、普段と違うせいかすごく妙な感じだ。
多岐川先生、どうしたんだろう。クラスのみんなは知らないけれど、私はついこの間、まりちゃんの家の近くで先生に会っている。あのときは元気そうに見えたけど、急に体調が悪くなったりしたんだろうか。
クラスメイトの中には、教頭先生やほかのクラスの先生たちに、多岐川先生のことを聞きに行った子もいたらしい。でも、やっぱり詳しいことは教えてもらえなかったみたいだ。多岐川先生は人気があったから、気にしている子も多い。登校日にピンポイントで休むなんて、つい心配になってしまう。
(二学期には戻ってくるって言ってたから、そんなに重い病気じゃないってことなのかな。たまたま風邪とかひいちゃったのかも)
なんにせよ登校日なのに、先生にもまりちゃんにも会えなかった。先生、あの後もまりちゃんの家に行ったのかな。そのことを聞きたかったのに残念だ。
登校日は午前中だけで終わって、お昼前に下校することになった。
昇降口の近くで茜が私を待っていた。五年生と二年生だと下校時間がずれるから、ふだんはいっしょに帰らない。わざわざ待ってるなんてめずらしいと思った。
「いっしょに帰ろ」
茜は私を見つけると、走ってこっちにやってきた。昇降口まで一緒だった友だちはたまたま別方向に行く子たちだったので、私は茜と二人で帰ることになった。
茜は幼稚園のときよくやっていたみたいに、私と手をつないできた。
「今日甘えんぼじゃない?」
私がからかっても、茜はだまっている。かと思ったら急にこっちを見て、
「お姉ちゃん、最近ちょっといやな匂いする」
と言った。
「……いやな匂いって?」
とっさにまた、まりちゃんのことを思い出した。
「なんか、普通のくさいとかじゃなくて、いやな匂いなの」
茜は首をかしげながら言葉を探す。「なんのにおいかわかんないけど……こないだの月曜とか、特にいやなにおいしてた」
月曜と言われて、またまりちゃんのことを思い出した。確か、まりちゃんの家に行って、先生に会って、それから山道を上ってみた……
「なんか、よくわかんなくてごめんね。なんか怖いの。いやな感じする」
茜はそう言って、つないでいた手をぎゅっと強く握った。
私も何もわかっていなくて、だから何を言ったらいいのかわからなくなって、とにかく手をつないだままふたりで家まで歩いた。家につくと茜はふだんどおり元気な子に戻っていたけど、家で待ってたおばあちゃんに色々聞かれたくなかったんだと思う。
お昼ごはんを食べて、私はリビングで本を読み始めた。読書感想文を書かなきゃならないのに、全然頭に入ってこない。
そのとき、窓の外からカン、カンという音が聞こえてきた。音は裏口の方から玄関の方に移動していく。
何だろうと思っていたら、インターホンが鳴った。
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