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■■■を育ててるならやめた方がいい――わざわざそんなこと言われるなんて、どうしてだろう。それもあおいちゃんのお母さんがそんなことを言うなんて。
とにかく、ママがあいちゃんを捨てたりすることはなさそうだ。ママはわたしをじっと見て、「いい? あおいちゃん家のひとの言うことは聞いちゃだめだからね」と念を押した。
あおいちゃんのことは気になるけど、「うん」と答えた。あいちゃんを捨てることなんかできない。それに、ママのことも怖かった。
ママが怖い顔をするから、お札のことを言いそびれてしまった。あのお札は、あおいちゃんの家でしか見たことがない。少なくとも、わたしは知らない。今のママに、あおいちゃんの家に関係あるものを見せるのが怖くなってしまって、ついだまってしまった。
一度言いそびれると、どんどん言い出しにくくなった。でも、誰が何の目的で持ってきたものなのかは気になる。ママがいない昼間に、あいちゃんに「あのお札、なんだと思う?」と聞いてみた。あいちゃんは何も言わずに、きゅーっと小さくなってみせた。あいちゃんはどうやらあのお札が好きじゃないらしい。
ママの携帯に何度か多岐川先生から電話があった。ママは「家のことで色々あってショックを受けているみたいだから、しばらくそっとしておいてほしい」と答えていた。
■■■のお世話をしてるから学校に行けないなんて、もちろん言えるはずがない。それにそっとしておいてほしいのは本当だった。あいちゃんが血をほしがるから、わたしはいつも貧血気味だ。血をあげているとき、(今って精気も吸われているのかな)と考えるようになった。ちょっとずつ吸われていたら気づかないかもしれない。ママも協力してくれるけど、前みたいにはいかない。また入院されたら困ってしまう。
ランドセルは一度も背負う日がなくて、だからお札も中に入れっぱなしだった。
わたしは結局ママにお札のことを言わないままだ。もしもママが「だれかがお札を持ってこなかった?」なんて言ったらちゃんと話すと思うけど、今のところママは何も言わない。ママは何を知っているんだろうか? 「先生」って呼ばれてるひとのことも、ちゃんと調べた方がいいんだろうか。でも、どうすれば調べられるんだろう?
わからないことがいっぱいのまま、とうとう一学期が終わって、夏休みが始まってしまった。
「ねぇまりちゃん、お昼ごろ、ママの携帯に電話くれた?」
仕事から帰ってきたママが、ただいまも言わずにそう話しかけてきた。
「かけてないよ。電話ないし」
そう、そもそもかけられないのだ。わたしの携帯は解約しちゃったし、家には電話がない。外に出て公衆電話を探せばママに電話をかけられるけど――とにかく、電話なんてかけていない。
「そう? ほんとに?」
念を押すママはすごくうれしそうだ。わたしは不思議に思いながら、「ほんとにかけてないってば」と言った。
「じゃあ、ほんとにあいちゃんだね。あいちゃん、すごいことができるんだ」
ママはわたしに、何があったか話してくれた。今日、休憩時間にママの携帯が鳴ったらしい。電話だと思って出たら、『ちょうだい』って言って切れちゃったらしい。
「あいちゃん? あいちゃんも電話なんかかけてないよ?」
わたしがそう言うと、ママはうれしそうにわたしの頭をなでた。「そうだね。でもかかってきたんだよ。そういうことができるくらい、あいちゃんは力が強くなったってことだね」
あいちゃんが、本物の電話を使わずに、ママの携帯に電話をかけたっていうこと? 確かにそんなことができたら魔法みたいですごいけど、なんだか落ち着かない。まず「ちょうだい」って何だろう? ママに何を「ちょうだい」って言ったんだろう。
考えていると、ママがいきなりわたしをぎゅっと抱きしめた。
「ママのママ――まりちゃんのおばあちゃんね、ママが中学生くらいのときに亡くなったの。ママの■■■に精気を吸われたのね。悲しかったけど、うれしかったなぁ。いよいよあいちゃんが大きくなって、強くなったんだよ。よかったねぇ、まりちゃん」
わたしはびっくりしてママの顔を見た。
ママはふわふわ笑っていた。
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