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だれがこんなもの持ってきたんだろう、とわたしは考えた。やっぱりあおいちゃんの家のだれかかな。おばあちゃんって可能性が一番高いと思うけど、お母さんかもしれないな、とも思う。
あおいちゃんじゃなさそうだ。あおいちゃん、「先生」ってひとのことよく知らないって言ってたし、あんまり関わりたくなさそうだったから。それにあおいちゃんだったら、ポストにお札を入れただけでは帰らないと思う。たぶん、わたしに会おうとしてくれるはずだ。
でも、どうしてこんなものをうちのポストに入れていったんだろう? よくわからない。わたしにくれたのか、それともママにくれたのかも謎だ。
とりあえずちゃんとしまっておかないと。誰のものかはわからないけど、たぶんこれは大切なものだと思う。ちょっと考えて、自分のランドセルの中に入れておくことにした。ここならとりあえず、汚したりなくしたりしない。あいちゃんが食べちゃったりとか――しないと思うけど――そういうこともないと思う。
お札をしまってから、もう一度あいちゃんを見にいった。あいちゃんはまた大きくなった。もう野球ボールより全然大きい。片手には乗りきらないくらいになっている。そろそろ箱をもっと大きなやつに替えてあげないと、きゅうくつでかわいそうだ。
あいちゃんのことが全然怖くないっていったらうそだけど、でもやっぱり大切なことには変わりない。あいちゃんが強い■■■になれば全部大丈夫、前みたいに大きな家に住んでピアノも弾けるようになるってママは言うけど、たぶんわたしは、それだけのためにあいちゃんを育ててるわけじゃない。あいちゃんのことが大事だから、息をかけたり血をあげたりしているんだ。たぶん、ママもそうだと思う。
その日、ママは帰ってくると「まりちゃん、あおいちゃんのおうちの人に会った?」とわたしにたずねた。
「ううん」
そう答えてから、「でもだれかがお札を持ってきたよ」って教えようとした。そしたらママが先にこう言った。
「あおいちゃんのおうちの人と話したり、家にあげたりしちゃだめだよ。あいちゃんを見せるのもだめ。絶対にだめだからね」
すごく強い言い方で、ママにはめずらしいなと思ってびっくりした。この間パパを追い出したときのことを思い出した。■■■のことになると、ママは時々すごく怖くなる。
「……どうして?」
それだけ聞くのに、なんだかすごくどきどきした。ママはかがんでわたしと目をあわせた。本当に会ってない? って聞かれてるみたいだった。
「ママとあおいちゃんのお母さん、親戚だって知ってるよね」
「うん」
だからわたしとあおいちゃんも親戚みたいなものだよね、って思ってうれしかったから、そのことはちゃんと覚えている。
「あおいちゃんのお母さんは分家なの。わかるかな? 本家と分家っていうのがあってね……うーん、おんなじ血筋のひとだけど、ちょっとちがうって思ってくれればいいかな。あおいちゃんのお母さんの家は、■■■のことは知ってるけど、■■■を育ててはいないおうちなの」
「うん」
わたしはまたうなずいた。だよね。あおいちゃんは■■■を育ててないみたいだし。
「それだけならいいんだけど――あおいちゃんのお母さんね、今日ママに会いにきたの。まだ■■■を育ててるんだったら、やめた方がいいって」
そう言ったママは、すごく怒ったときみたいな顔をしていた。
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