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ゴミ捨て場のすみっこには、あいちゃんが入っていた箱が転がっていた。きっとパパだ。ゴミの日がいつか知らないから、こんな日にあいちゃんをゴミ捨て場に捨てたんだ。ゴミ収集車に持っていかれなくてよかった。
わたしはあいちゃんを箱の中に入れて、部屋に持っていった。心臓がどきどきしていた。ゴミ捨て場に置きっぱなしにしてきたトイプードルのことを考えるとひやひやする。あいちゃんが血を吸ってた。元々死んでた犬の血を吸ってたんじゃなくて、生きてる犬の血を吸って、それで死なせちゃったんだ。
こんなこと初めてだった。
パパは何もなかったみたいに朝ごはんのしたくをしていて、それがけっこうイラッときた。パパはわたしが箱を持っているのにすぐ気づいた。
「捨てなきゃだめだ。もどしておいで」
「いや」
「パパには見えないけど、それは危ないものなんだよ」
そうか、パパはあいちゃんのことが見えないんだ。ほとんどのひとはあいちゃんが見えないって、ママが前に言ってたっけ。それがわかったとき、ずっと大好きだったパパのことが、そのとき急に、ちょっとだけだけど、きらいになった。
「危なくないよ」
「危ないよ。まりあもママも、もうそれを飼うのはやめなきゃいけないんだよ。それを持っているのは怖いことなんだ」
パパ、わたしもママも、危ないだけのものをかわいがっているように見えてたのかな。あいちゃんのことを、ずっと怖いものだと思っていたのかな。本当にそうなのかな。だとしたらやっぱりパパはよその人で、何にもわかっていないと思う。
「ちがうよ。怖くない」
そう言うと、パパはあきらめたみたいでため息をついた。
「そうか」
「……本当にちがうから」
さっきよそのワンちゃんを食べちゃったことは言えなかった。パパだけじゃなく、ワンちゃんの飼い主まで、あいちゃんを捨てろって言いにくるかもしれない。平気でペット禁止のルール違反をするような人なら、うちにいやがらせしたりするかもしれない。あいちゃんは悪くないのに。
「……もう勝手に捨てないで」
わたしが言うと、パパはちょっと迷って、でも一応わたしの頭をなでてくれた。
「わかった。パパも勝手なことして悪かった」
パパもじゃなくて、悪いのはパパだけだよ、と思ったけど言い返すのはやめた。あいちゃんはお腹がいっぱいになったみたいで、箱の中でおとなしくしている。すやすや眠っている。
あいちゃんはきっとまた大きくなる。大きくなって、たぶんまた何か食べたくなって――
また心臓がどきどきしてきた。あいちゃんは、今度は何を食べたがるんだろう。なにを「ちょうだい」って言うんだろう。
でも、ちゃんと育てなくちゃならない。
あいちゃんを強い■■■にすれば全部大丈夫なんだから。今さらやめるなんてダメだ。あいちゃんは怖くない。わたしがあいちゃんを怖がるなんて、おかしなことだ。
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