06

 あいちゃんの言葉を聞いたら、わたしも背中がぞわっとした。あおいちゃんはなんともないみたいで、「お返しなんかいいのに」と言ってくれる。

「ありがと。でも、気になっちゃうから」

 怖くなってつい「ごめんね」って話を切り上げてしまった。またあおいちゃんに心配をかけてしまったかもしれない。

 でも、なんであおいちゃんからいやな匂いがしたんだろう? それに、なんであいちゃんはあおいちゃんを怖がったのかな。

 わたしは家に帰ってから、あいちゃんに聞いてみた。

「あいちゃんは、あおいちゃんが怖いのかな? あおいちゃん、いい子だよ?」

 あいちゃんはぶるぶる震えるだけで何も言わないけど、わたしには「あおいちゃん怖いよ」って言ってるみたいに見えた。

「なんで怖いの? お話しできる?」

 あいちゃんは小さな小さな声で「うしろこわいのいるよ」って教えてくれた。あいちゃんはまだ、お話しするのがあまり上手じゃない。

「じゃああいちゃんは、あおいちゃんの後ろにいる『こわいの』が怖いんだね」

 わたしがそう言うと、あいちゃんはまたぶるぶる震えた。

「もしかして、なんか変な匂いがしたのもその『うしろのこわいの』のせいかな?」

 そう聞いてみると、あいちゃんはまた震えた。

 そうか。あいちゃんはあおいちゃん本人が怖いんじゃなくて、後ろにいる「なにか」が怖いんだ。

 わたしにはわからないけど、あいちゃんにはわかるんだ。


 あいちゃんが怖がるといけないので、学校にあいちゃんを持っていくのはそれっきりでやめておいた。

 だからあおいちゃんと会うときは、あいちゃんが一緒じゃないときだ。なのにあおいちゃんからはそれからもあの、いやな匂いがするようになった。

「たぶんあいちゃんのおかげで、一度いやな匂いがするってことに気づいたからだね」

 ママに相談すると、そう教えてくれた。

 ママもあおいちゃんのことは知っている。何度も会っているし、あおいちゃんのお母さんとうちのママは、小さい頃からずっと友達らしい。

「あいちゃんが教えてくれたってこと?」

 わたしがそう言うと、ママはうなずいた。

「そうだね。そういうのって、一度気づくとそれからわかるようになるの。ほら、まりちゃんがむかし持ってたかくれんぼの絵本、覚えてる? あれも一回見つけちゃったら、次からどこに動物がかくれてるかすぐにわかっちゃうでしょ? それと同じことなの」

「そっか……じゃあ、あおいちゃんの後ろにいる『こわいの』って何だろう? もしかしてあおいちゃんも、あいちゃんみたいなものを育ててるのかな?」

 ふと思いついたらうれしくなってしまった。あおいちゃんと■■■の話ができたら、すごく楽しそうだ。でもママは「うーん、ママにはちょっとわからないな」と言って、困った感じに笑った。

「あいちゃんが怖がるなら、やっぱりあおいちゃんの後ろにいるのは■■■じゃなくて、別の何かじゃないかな? ママが会って見たわけじゃないから、よくわからないけどね」

「そっかぁ」

 やっぱり、■■■のことはあおいちゃんにもないしょにしておかないとだめらしい。いっしょに■■■やあいちゃんの話ができなくて残念だ。

 でも、あおいちゃんの後ろにいるのは一体何なんだろう? すごく気になる。あいちゃんがもっとおしゃべり上手になったら、わたしに教えてくれたりしないかな。

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