05

 カッターで切った傷は一日とかじゃ治らなくって、だんだん腕が傷だらけになってきてしまった。でも、あいちゃんが血をほしがるからしかたがない。

 あいちゃんは野球ボールくらいの大きさになった。一日に何度も血をほしがるので、ママもときどき協力してくれている。今は長袖が着られるから傷をかくせていいけど、暑くなったらいやだなぁと思う。

 あいちゃんのことに夢中だったので、最近はおしゃれに全然興味がわかなくなってしまった。前はママが髪をむすんだりしてくれたけど、今はいそがしいし、つかれているときも多いから、むりにお願いしないようにしている。ママを手伝いたいから、洗たくとかちょっとした料理とかもするようにしているけど、洗濯って思っていたよりむずかしい。何でも洗濯機に入れればいいってものじゃないんだな……と反省した。そでのはしっこが汚れたり、型がくずれてしまった服が多くなってきたけど、あいちゃんが大きくなったら元どおりになるだろうから気にしなくてもいいか。どっちみち、今はあいちゃんのことでいそがしいから、それどころじゃない。

 最近友だちから遠まきにされてることが増えた。やっぱり前みたいにきれいな格好してないからかな、と思う。でも、それだってどうでもいい。とにかくあいちゃんがりっぱに育ってくれたら、それでいいんだ。


 でも、あおいちゃんのことだけは気になる。

 あおいちゃんはわたしのことをすごく心配してくれる。そのあおいちゃんに、わたしは全然大丈夫なんだよって教えてあげられないのがじれったいし、悪いことをしている気分にもなる。

 時々考える。あおいちゃんにあいちゃんのこと、話しちゃったらだめかなって。

 あおいちゃんだったら、絶対にないしょにしてくれると思う。


 わたしはたまに、あいちゃんを箱から出して、外をさんぽするようになった。

 ママが反対するかな、と思ったけど、「まだ小さいし、ひとに見つからなければだいじょうぶ。もし見つかってもほとんどのひとは■■■が見えないよ」って言われたのでほっとした。外に出ると、あいちゃんは楽しそうにふるふるふるえるので、わたしも楽しい。この団地はペット禁止だけど、あいちゃんなら大丈夫だ。まぁ、こっそりワンちゃんを飼ってるひともいるんだけど。

 この間、あいちゃんを服の中に入れて、こっそり学校に連れていった。体育がない日だから、ずっとあいちゃんをかくしておける。まわりにたくさん人がいると、あいちゃんはなんだかうれしそうだ。

「ねぇまりちゃん」

 休み時間に、あおいちゃんがわたしのところに来た。「誕生日、どうする?」

 あおいちゃんに言われて、はじめて自分の誕生日が近いってことを思い出した。毎年あおいちゃんやほかの子たちをうちに呼んで、パーティーをしてたんだっけ。でも今年は引っ越しがあったし、あいちゃんが話し始めたりしたからすっかり忘れていた。

「お返しできなさそうだからいいよ」

 そう言うと、あおいちゃんは急にかなしそうな顔になってしまった。あ、しまったなぁ、と思った。わたしは別にかなしくないけど、あおいちゃんはわたしのことを心配してくれているんだ。でもあおいちゃんの誕生日までにあいちゃんが大きくなってるかどうかなんてわからないし、わたしだけプレゼントもらったりすると悪いな、と思う。どうしようって思ったとき、急に匂いがした。

 なんだかわからないけど、いやな匂い。

 それも、あおいちゃんの方からただよってくる。


 服の中で、あいちゃんがふるふるっとふるえた。わたしだけにしか聞こえない小さな小さな声で、

「あれこわい、こわいね」

 って言った。

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