04
あいちゃんの声はもう、まぐれとかじゃなくてしっかり聞こえるようになった。でも「ち、ち、ち、ちょうだい」ってどもったみたいな言い方で繰り返すだけで、なにがほしいのかよくわからない。とりあえず息をふきかけてかわいがるのは続けているけど、ほしいものがもらえないあいちゃんはかわいそう。気のせいかちょっと小さくなって、色も黒っぽくなったかもしれない。このまま死なせちゃったら大変だ。
悩んで、ママに相談してみることにした。そうしたら、わたしはすごくまじめなつもりだったんだけど、いきなり笑われてしまった。
「ごめんごめん。そっかそっか! まりちゃんにはそういうふうに聞こえたんだね」
ママは引き出しからカッターを出すと、「ちょっとおいで」と言って、あいちゃんがいる部屋の方に手招きをした。
「ちょっと痛いけど、そのうち慣れちゃうからね」
ママはわたしの左手をとると、腕の内側のやわらかいところにカッターの刃の背をあてて、「ここをちょっとだけ切るからね」と言った。
その頃にはさすがにわたしも気づいた。なんだ、あいちゃんがほしいのって「血」だったんだ。最初からちゃんと教えてくれていたのに、わたしがかんちがいしていたんだ。
「自分でやらせて!」
うれしくなってそう言うと、ママはにっこり笑ってカッターを渡してくれた。わたしは右手でカッターを持つと、ママが「切るからね」と言ったところを自分で切ってみた。すごい怪我したらどうしよう、と思ったけれど、痛かったわりにはちょっと痕をつけたみたいな傷しか残っていない。がまんしながら何度か刃をあててみて、ようやく血がじわじわと出てきた。
箱から出したあいちゃんを腕の傷の上においてみると、きゅーっと吸い上げられるような感じがして、あいちゃんがぷるぷるっと動いた。
「やった! 気づかなくてごめんね、あいちゃん」
あいちゃんはうれしそうにふるふるとふるえた。ほんとに気のせいかもしれないけど、ちょっとだけ大きくなったような気がする。
「ね、■■■って血をほしがることが多いの。ほんとはだれの血でもいいんだけど、初めてあげるんだから自分のがいいでしょう」
ママはわたしのことをほめてくれた。ママのいうとおりだ。わたしがずっと育ててきたあいちゃんなんだから、最初に飲んでもらう血はわたしのものがいい。
「よかったね。これでまたきっと、あいちゃん大きくなるから」
ママはそう言ってわたしの頭をなでた。最近はお弁当屋さんで働いているから、すべすべだった手があれて、ネイルもしていない。あいちゃんが大きくなったら、きっとママの手も前みたいにぴかぴかになるんだと思う。
すごく楽しみになってきた。はやくあいちゃんが大きくなればいいな。
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