05
「全然大丈夫だよ、あおいちゃん」
って、まりちゃんはふわふわ笑う。
放課後、すぐに帰ろうとするまりちゃんをつかまえて「いっしょに帰ろう」と声をかけた。
やっぱり、まりちゃんと話したほうがいいと思った。私たちは友だちなんだから、ひとりでうじうじしているよりもその方が絶対にいい。遠慮なんかしていたら、ずっと話せなくなるかもしれない。
まりちゃんは「いいよ」と言って笑った。相変わらずいやな匂いがしたけど、がまんした。
空は灰色で、雨が降りだしそうだった。もう梅雨に入っている。ちょっと肌寒くて、まりちゃんが長袖を着ていてもそんなにおかしくはなかった。そのことに私はちょっと安心してしまう。腕の傷どうしたのっていきなり聞いても大丈夫かな。いきなり聞くのはよくないかもしれない。でもそんなことばっかり言っていたら、大事なことなんてずっとずっと聞けないままかもしれない。
私たちは校門を出て、前と同じ道順をたどって歩いた。まりちゃんの今の家がどんどん遠くなる。今にも「わたし、こっちだから帰るね」と言われてしまいそうで、私はあせって口を開いた。
「あの……最近どう?」
「どうって?」
まりちゃんがわたしを見る。
小動物っぽいかわいい顔が、やっぱり前より痩せたように見えて、私はぎゅっと拳をにぎった。やっぱり、ちゃんと聞かなきゃだめだ。
「その……最近まりちゃん、髪とか編み込みしてないし、服ちょっとしわだらけだし、腕なんかケガしてるし、ごめん、その、気になってさ……」
なんかこれ、すごい悪口みたいになってないかな、と思って、途中からまりちゃんの顔が見られなくなった。私こんなにまりちゃんに他人行儀だっけ? 自分でもおかしいと思う。きっとまりちゃんもおかしいと思ったんじゃないかな。
勇気を出して顔を上げてみた。まりちゃんはふわふわ笑っていた。そのふわふわの笑い方が何だか前と違うような、でもそんなの気のせいみたいな感じもする。私は知らないことばっかりだ。
いつの間にか公園の前に来ていた。もうツツジの花はほとんど咲いていない。まりちゃんは私にふわふわ笑いかけて、
「全然大丈夫だよ、あおいちゃん」
と言った。
「今は大変だけど、そのうちなんとかなるから。それよりさぁ」
まりちゃんが一度言葉を切って、私を見る。ふわふわの笑顔が魔法みたいにすっと消えて、私はそれに見とれてしまう。
「あおいちゃんこそ、大丈夫?」
まりちゃんはそう言った。時が止まったみたいに、辺りが静かになった。
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