あいちゃんのこと
01
わたしの名前は小早川まりあ。七歳のころからずっと■■■を育てている。
七歳の誕生日にこれがあなたの■■■だよってママからもらって、それから大事に大事に育てている。
ママも、亡くなったおばあちゃんも■■■を育てていたらしい。でも大きくなった■■■はどこかにいってしまうから、もういないんだって。だけど■■■のおかげでうちがお金持ちになったし、まりちゃんみたいなかわいい子が産まれたんだよってママたちは言ってた。
わたしがかわいいかどうかはおいといて、実際うちはお金持ちの方だと思う。パパは社長さんらしいし、ママはおしゃれで、ママとわたしの服を買うのが大好きだ。家もけっこう大きいし、わたしの部屋にピアノもある(電子ピアノじゃなくて普通のアップライト)。だから■■■ってすごいんだなって、ずっと思っていた。
最初、わたしの■■■はビー玉くらいの大きさしかなかった。ほんのりあたたかくて、時々ふるふる震えた。大事にしなきゃいけないものなんだってことは、すぐにわかった。
机の引き出しを一個空っぽにして、そこを■■■のおうちにすることにした。最初は時々息を吹きかけてあげればいいんだって教わった。名前をつけてあげた方がいいって言われたから、あいちゃんにした。
わたしの一番好きな友達があおいちゃんで、あおいちゃんの妹があかねちゃんだから、植物で、色みたいな名前がいいなって思った。あいちゃんは別に藍色とかじゃないけど、あかねちゃんだって別に赤いわけじゃないからいいと思う。かわいい名前になってよかったなと思った。
あいちゃんにしたよって言ったら、ママはすごくほめてくれた。「かわいい、いい名前だね。きっとすごく大きくなるよ。大きくなるまで大事にしてね。大事にしないとだめよ。お目々がつぶれるよ」
そう言ってママは、両手でわたしの目をふさいだ。
ちょっとこわくなって、どきどきした。
目がつぶれるって、全然見えなくなるってことかな。それは困るな、と思った。でも、目が見えなくなってもピアノは弾ける。ピアノの鍵盤は勝手にあちこち移動したりしないし、楽譜は耳で聞いて覚えればいい。もしも目が見えなくなったときにそなえて、今のうちにたくさん練習しておいた方がいいかもしれない。
それはそれとして、わたしはちゃんとあいちゃんのことを大事にしている。大事にしないなんて、あいちゃんがかわいそうだ。
「■■■は大きくなると願いごとをかなえてくれるんだよ」
ママはそう言ってわたしの頭をなでる。
「願いごとって、いくつ?」
「いくつでもよ」
「どんな願いごとでも?」
「それは■■■の力の強さ次第かな」
「ママのはどうだった?」
ママはふふっと笑って、「まぁまぁかな」と答えた。
まぁまぁだって。わたしのあいちゃんは、もっと強い■■■になればいいな。
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