03

 おばあちゃんが「先生」と呼ぶひとのことは、私にはよくわからない。少なくとも学校の先生ではないみたいだ。たぶん占い師とか祈祷師とか、そういう感じの人なんだと思う。

 おばあちゃんは昔からずっと頼りにしているみたいで、お父さんもお母さんもどういうひとかは知っているらしい。私は知らない。三つ下の妹もやっぱり知らないみたいだ。お父さんはおばあちゃんの息子だけど、「おばあちゃんの拝んでるやつはよくわからんなぁ」と言って苦笑いしている。信じているのかいないのか、よくわからない。

 おばあちゃんは時々、「葵ちゃんもそのうち先生に会おうね」と私に言うことがある。なんていうか「念を押す」みたいな言い方だ。なんだか怖いし面倒だしで、正直会いたくないなと思っている。

 先生ってひとが、どんなことをしてくれるひとなのか、私にはわからない。もしも魔法使いみたいに何でもできるのなら、まりちゃんを何とかしてあげてくれないかな、と思う。きっとまりちゃんは今、すごく困っているはずだから。

 それができないのなら、私をすごく強くて、頭がよくて、何でもできる子にしてほしいな、とも思う。そしたら私が、自分でまりちゃんを助けにいけるかもしれない。


 六月にはまりちゃんの誕生日がある。でも今年はプレゼントとかいいよ、って、まりちゃん本人に言われてしまった。

「お返しができないと思うから……」

 そう言ってまりちゃんは寂しそうに笑う。

 雨が続いて洗濯物が乾きにくいせいかもしれないけれど、まりちゃんは近づくとちょっといやな匂いがした。前は雨の日でも嵐の日でも、いつもいい匂いがしていたのに。私はなんだかいたたまれなくなって、まりちゃんにどんな顔をしてみせたらいいのかわからなくなってくる。

「お返しなんかいいのに」

「ありがと。でも、気になっちゃうから」

 もう一度「ごめんね」と言われて、私は何も言う気になれなくなってしまう。

 学校行事で科学館に行く機会があった。館内にはプラネタリウムがある。人工の流れ星に、私は願い事をしていた。

(まりちゃんが前のまりちゃんに戻りますように)

 願い事は流れている間に三回唱えろっていうけど、全然間に合わなかった。

 まりちゃんはやっぱりちょっといやな匂いがする。その匂いはだんだん強くなるような気もする。前は仲良くしていた子たちも、いつの間にかまりちゃんを遠巻きにするようになっている。まりちゃんもみんなから離れて、ひとりで過ごしていることが多くなった。

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