02

 まりちゃんは本当にピアノをやめてしまった。私も同じピアノ教室に通っているから、先生に聞いてちゃんと確かめることができた。先生は何度も「残念ね、まりちゃんピアノがあんなに上手だったのに」と言っていた。

 それだけじゃなく、引っ越しもした。今まで住んでいた大きな家から、ちょっと離れたところにある団地に移ったらしい。ピアノが部屋におけなくなったから、ピアノ教室もやめちゃったのかな――と私は思った。どうしてかうまく言えないけれど、急に不安になった。

 まりちゃんはママとふたりで暮らし始めたらしい。パパはどこか遠くに働きに行っているらしい。なんでそうなったのかわからない。まりちゃんのパパって社長さんじゃなかったっけ? でもお母さんが言っていたので本当のはず、少なくともまるっきり嘘ではないと思う。うちのお母さんとまりちゃんのママは親戚同士で、私とまりちゃんみたいなおさななじみなのだ。

 まりちゃんや、まりちゃんの家のことを話すとき、お母さんはぎゅっと眉をひそめている。


 まりちゃんはいつもふわふわ笑ってる。家が離れたから登校班は別になったけれど、学校にもちゃんと来ている。ちょっと引っ越したり、習い事をやめたりしたけど、前と同じまりちゃんだ――私はそう思った。思っていたかった。でも色んなことがどんどん変わっていって、私がそれを見ないようにしているだけなんだって、気づきたくなくても気づいてしまう。

 いつもきれいでかわいい格好をしていたまりちゃんの服が、なんだかよれて、袖とかちょっと汚れたままで、髪も前みたいに編み込みとかアレンジとかしてこなくなって――でもまりちゃんはふわふわ笑っている。たぶん気のせいだと思うけれど、私にはまりちゃんのいるところだけ、周りよりちょっぴり暗く見えてしまう。そんなことあるはずないから、きっと気のせいなんだけど。

 こんなことじゃだめだ、と思う。

 まりちゃんは、まりちゃんだ。ちょっとくらい変わっても、私のおさななじみのまりちゃんには違いない。だからこんな風に思ったらだめだと思う。

 変わっていくまりちゃんのことが、なんだか怖いなんて。

 そんなふうに思うのは、よくないことだと思う。

 きっと私が怖がっているのは、まりちゃん自身じゃなくて、別のなにかなのだ。私にはどうすることもできない何か大変なものが、まりちゃんの後ろにいる。それが私には怖いんだ、と思う。


「小早川さんとこも、先生にお願いしといたらよかったのに」

 おばあちゃんは最近、よくそう言うようになった。前より大きな声でお祈りをして、家の中にお札みたいな紙を貼るようになった。

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