誰にも言えない秘密の恋 ~下~

「君が、仕事に向かう途中に意識を失って倒れていた俺を病院に連れてきてくれたんだってね」

「は、はいっ!」


 ふわわっ!?

 なんて素敵なイケメンボイスなの!?

 思わず声が裏返っちゃった!


 しかも声だけじゃなくて、よく見たら顔も超イケメンだし。

 なにこれなにこれ!

 アイドル!?


 やっば!

 朝遅刻しそうだったから、私の髪いっぱい跳ねちゃってるよ~~(涙)


 私はあせあせと急いで髪のはねっ返りを整える。

 もちろんそんなことをしても意味はなく。

 私の髪は再びぴょこんと跳ねてしまった。


 くそぅ、親譲りの跳ねっ毛が憎たらしい……!


「そうか。君には感謝してもしきれないな。助けてくれて本当にありがとう。名前はなんて言うんだい?」


「あ、えっと、神園まどかと申します」


「神園まどか、素敵な名前だね。俺は九条誠也、九条グループの御曹司だ」


「九条グループって、あの有名な九条グループの!? プロ野球チームとか持ってる!」


「ああ、その九条グループだな」


「すっごい!! どーりでVIPルームにいるわけですね! あ、そうだ。あの、九条さんに伝えておかないいけないことがありまして――」


「誠也と呼んでくれてかまわないぞ、まどか」


 ふぇぇっ!?

 いきなり名前で呼び捨てにされちゃった!?


 でもカッコいいから許しちゃう!

 しかも私も名前で呼んでいいんだって!

 えへー!


「えっとじゃあ誠也さんで……誠也さん、あのですね。今回の件は――」


 私は遅刻しそうになって急いでいたせいで、出合い頭に誠也さんを突き飛ばしてしまったこと。

 それを正直に告白しようとしたんだけど。


「まどか、助けてくれたお礼をしたいんだ。今度の日曜日にデートでもどうだい?」

 誠也さんは私の話を遮るようにして、そんな提案をしてきたのだ――!


「お礼なんてそんな、元はといえば私のせい――」


「そうだな、ディズーニを借り切って1日遊ぶなんていいかもな」


「ディズーニランドを貸し切り!? そんなことできちゃうんですか!?」

 私は思わず反応してしまった。


 だってディズーニだよ!?

 千葉にあるくせに東京を名乗ってる以外は、完全無欠の夢の国だよ!?


 ディズーニを嫌いな女の子って、いる?

 行きたい行きたい行きたーい!


「九条グループ御曹司の俺にとっては、それくらいは朝めし前さ」

 カッコよくウインクをする誠也さん。


 トゥンク――!

 言ってることもウインクもあまりにカッコよすぎて、私の乙女の心がときめきで大きく飛び跳ねた!


「でもでも、やっぱりそこまでしてもらうわけには……」


「すまない、今のはちょっと卑怯だったな」

「え――っ?」


「正直に言うと、俺が君とデートしたいんだ。ダメかな?」

「誠也さんが、私とですか!?」


 聞き間違いじゃないよね!?


「どうやら俺は君に一目惚れをしてしまったみたいなんだ」

「じょ、冗談はやめてくださいよ~」


 だって誠也さんは九条グループの御曹司で。

 イケメンで。

 イケボで。

 月曜朝から遅刻寸前の私となんかじゃ、絶対に釣り合わない人だもん。


 でも誠也さんは真面目な顔をして言ったんだ。


「冗談なんかじゃないさ。君の顔を見た瞬間に、俺の身体の中をビビッと強い衝撃が駆け抜けていったんだ」


「衝撃、ですか……?」


「ああ、まるで空手の正拳突きを鳩尾に叩き込まれたかのような、強い衝撃がね。俺は確信したよ、これは運命の出会いなのだと」


「…………(滝汗)」


 それきっと、私が誠也さんに正拳突きしたのを無意識化で覚えていて、私の顔を見たせいでフラッシュバックしちゃっただけです……。


「だからぜひ俺と1度、デートに行ってもらえないかな? ディズーニランドの貸し切り、いつでも好きな日に用意するからさ」


 誠也さんは少し身を乗り出すと、私の手をそっと優しく握った。

 アイドル顔負けのイケメン誠也さんがが私の目の前にあって。

 握られた手から、私の身体の中を激しいときめきが駆け抜けていった――!


 トゥンク!

 トゥンクトゥンクトゥンクトゥンクトゥンクトゥンクトゥンクトゥンク――――!!


 こんな素敵な人からディズーニランドの貸し切りデートに誘われるなんて!

 こんな幸せってあり!?


「は、はい。喜んで!」


 私の口はときめく乙女心に忠実に従ってイエスと答えたのだった。


 ――と。


「そう言えばまどかはさっき何か言おうとしていたよな? 何を言おうとしていたんだい?」


 ギクゥッ!!??


 い、言えない。

 私が走っていたせいでぶつかってしまって、反射的に空手の正拳突きをして激しく吹っ飛ばしちゃったんだってことは、絶対に言えない。


 だって言ったら、

「自作自演かこのアマ! とっとと出ていけ!!」

 って言われちゃうもん!

 誠也さんとのディズーニランド貸し切りデートがおしゃかになっちゃうもん!


「えっと、なんだったかなぁ? 忘れちゃったぁ、あははは……」


 私はしらを切ることにした。

 このことは墓場まで持っていくんだ!


 そう。

 これは誰にも言えない秘密(正拳突き)から始まった、庶民の私&御曹司の誠也さんの恋物語――。


 (終わり)

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誰にも言えない秘密の恋 ~遅刻寸前、正拳突きから始まった御曹司との恋物語~ マナシロカナタ✨2巻発売✨子犬を助けた~ @kanatan37

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