第198話 悪い虫って何ですか?

 魔剣士に弟子入りできるかも……。


 そんな希望の恩恵は絶大らしく、コルトもアーシアも仕事中は張り切っていた。

 監督官のオリーブが一号棟の見回りに来るわけであるが、二人のパフォーマンスの高さを褒めていた。


「もう慣れましたか?」


 これはマーリンに対する質問だ。


「はい、コルトもアーシアも親切にしてくれるので助かります」

「今後の活躍に期待しています、オッドアイのお嬢さん」


 マーリンはチョロい性格をしているから嬉しくて嬉しくて仕方ない様子だった。


 お昼の時間になる。

 いつものように四人で食堂へ向かおうとしたら、八人グループが一緒に食べようと声をかけてきた。


「どうする?」とコルトが聞いてきたので「別にいいよ」とウィンディは返しておいた。


 彼らの目的はすぐ分かった。

 マーリンの存在である。


 可愛くて、人懐っこくて、ミステリアスな存在だから気になるらしい。

 ファクトリーで働いている女子にしては珍しく、どこか高貴なオーラをまとっているのも魅力だった。


(私が男でも、マーリンみたいな子をお嫁さんに欲しいわよね〜)


 短いパスタをフォークで突き刺しながら思う。


 ウィンディも男子から声をかけられた。

「その首飾りステキだね」と言われたので「大切な人からもらった」と返しておいた。

 可愛くないという自覚はある。


 昼休みになる。

 ここでも大量の視線がマーリンへ注がれていた。


「落ち着けるところへ移動しよっか」

「私はどこでも構いませんよ」


 自分がモテているという事実にマーリンは気づいていないらしい。

 元々恋愛に興味がなさそうだし、鈍感というべきか、無知というべきか、言葉に迷うところである。


 ファクトリー近くの公園へやってきた。

 ベンチが空いていたので二人で腰かける。


「私の顔に何かついていますか?」

「いや、マーリンって可愛いなって思って」


 小顔で、目がパッチリしていて、肌がきれいだから当然だろう。

 なのに本人は照れている。


(可愛いって言われると嬉しいんだ……もしかして相手が私だから?)


「ウィンディから褒められると嬉しいです」


 当たっていた⁉︎

 しかも特別扱いされたせいでウィンディまで照れてしまう。


「マーリンって男の人を格好いいとか思ったりするの?」

「殿方を、ですか?」


 髪の毛をいじくりながら真剣に考えている。


「異性と話す機会があまりないもんね。マーリンが話したことある男性といえば……」


 グレイ、ネロ、アッシュ、スパイクくらいか。

 一癖ある人ばかりだが、みんな違った魅力がありそう。


「実は私、男の人と話すのが苦手で……」

「でしょうね」

「ウィンディの隣が一番落ち着きます。もちろんエリシア様の隣も好きですが、情けない姿を見せたらダメという緊張感もあって、ウィンディの隣が一番気楽です。ウィンディはいつも私をフォローしてくれますし」

「なんでマーリンは……」


 恥ずかしいセリフが次から次へと出てくるのだろうか。

 ウィンディに対する好意が筒抜けである。

 聞いているこっちが恥ずかしくなる。


「こっち向いて」


 マーリンの頬っぺたをつまんで伸ばしたり潰したりしてみた。

 美少女はブサイクな表情でも美少女である。


「あぅあぅ……」

「悪い虫がつかないよう私が気をつけないと」

「悪い虫って何ですか?」


 モチモチの頬っぺたから指を離すとぷるんと揺れる。


「私とマーリンの仲を裂こうとする人」


 意味をほとんど理解していないマーリンは、


「だったら、ウィンディに悪い虫がつかないよう私も気をつけますね」


 とウィンディを苦笑させた。

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