第190話 エリシアの次に強い魔剣士は……

 結論からいうと、コルトはカマをかけてきた。

 強く否定しておけば、疑ってごめんね、くらいの会話で済んだだろう。


「どうして嘘って分かったのですか⁉︎」


 絶叫したのはマーリン。

 ものすごい声のボリュームだったので、ウィンディは慌ててピンク色の唇に栓をした。


(正直すぎるのも困りものだけれども、マーリンのバカな部分が可愛いのよね)


 そう思っちゃうウィンディも重症かもしれない。


「特に根拠があるわけじゃないから、何となくだよ。お姉ちゃんたち、以前のファクトリーのことは積極的に話そうとしないでしょう。俺が知る限り、移籍してきたやつっていうのは、こちらが質問していないことまでペラペラしゃべるものなんだ。違和感があるとすればそこかな」


 そんな見抜き方があったとは⁉︎

 コルトの賢さに舌を巻くと同時に次から気をつけようと思った。


「やっぱり視察の人だよね」

「もしかしてオリーブさんにもバレたと思う?」

「いや、スタッフの大人たちにはバレていないと思うよ」

「そっか。ならセーフかな。私たちが視察で来たってことは内緒にしておいてほしいんだよね」

「うん、いいよ。ね、アーシア」

「秘密は守る」


 理解のあるルームメイトで助かった。

 ここでコルトとアーシアを仲間にしておけば、今後ウィンディたちも動きやすい。


「視察ってことはお姉ちゃんたち魔剣士の関係者だよね。いつも王都に住んでいるの? 本物の魔剣士に会ったことあるの?」

「そうだけれども……」


 急にコルトの態度が変わった。

 好物を前にした犬みたいにソワソワし出す。


「あ、でも八人全員に会ったことはないよ」

「エリシア様は? 他の方は?」

「エリシア様とは時々お会いするかな。それ以外だと……」


 オリハルコンのグレイ。

 オニキスのネロ。

 ルビーのレベッカ。

 サファイアのファーラン。

 エメラルドのグリューネ。

 弟子入りして日は浅いが、たくさんの魔剣士と会話している。


「もしかしてコルト、将来は魔剣士に弟子入りしたいの?」

「そりゃ、もちろん。ジューロンのファクトリーも悪くないけれども、あと十年くらいしか働けないからね。弟子入りして、強くなって、人の役に立てる大人になりたいな。あとお金に不自由しない暮らしがいい」


 アーシアも同じ意見だった。


 お金が欲しい気持ちはウィンディも分かる。

 富豪になりたいとかじゃなくて、お金のことで毎日悩みたくない。


(コルトたちって親がいないのかな? だったらネロ様に弟子入りするのが良さそうだけれども……)


 コルトとアーシアは魔石作りの才能があるみたいだし、きっと成長スピードも早いだろう。


「弟子入りするならジャスティス様がいいな」

「ん? じゃすてぃす?」

「何だよ。お姉ちゃん、魔剣士の関係者のくせにジャスティス様を知らないのかよ」

「ごめん……まだ日が浅くて……ジャスティス様とは会ったことないかな」


 ダイヤモンドの魔剣士がジャスティスだった。

 情けない話をしておくと、アメシストの魔剣士の名前も知らない。


「会ったことあるのがジャスティス様だけって話なんだよね。俺が知る限り世界一格好いい大人だよ」

「そうなんだ。ジャスティス様って、やっぱり強いのかな」

「当たり前だよ」


 コルトは自分の胸をポンと叩く。


「エリシア様が一番強いのは当然として、その次に強いのはジャスティス様だね。不死身のネロ様も強いけれども、俺はジャスティス様の方が上だと思うね」


 グレイの名前が出てこなかったので、不満そうな表情になってしまう。


「お姉ちゃんも魔剣士の関係者なら知っていると思うけれども、七つある位の内、ダイヤモンドが一番優秀なんだよ。あくまで傾向としてね」


 いや、知らん!

 と否定するほどウィンディも子供じゃない。


「二代目ミスリルの魔剣士イクシオン様、三代目ミスリルの魔剣士エリシア様、二人とも元々ダイヤモンドの魔剣士だったしね。だから四代目ミスリルの魔剣士もダイヤモンドから出てくると予想していた人は多いよ」


 コルトは物知りで、ウィンディたちの知らないことを色々教えてくれた。


「その……コルトは本当にジャスティス様が好きなんだね」

「うん、俺とアーシアの命の恩人だから。向こうは俺たちのことなんて覚えていないと思うけどね」


 ウィンディと一緒だ。

 危機から救ってくれたグレイのことが好きになった。

 自分もこういう大人になりたいと思った。


「逆にオリハルコンは地味だよね。今のグレイ様は強いけれども、大活躍した人は少ないんだよ。エリシア様が元オリハルコンっていうのは奇跡中の奇跡ってやつさ」

「ッ……⁉︎」


 思わずイラっとしたウィンディであるが、マーリンが手を握ってきて、


『怒ったらダメです』


 と視線で訴えてきた。


(私だって優秀なオリハルコンの魔剣士になるもん!)


 その決意を強くした。

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