第188話 いきなり一号棟のAクラス

「ここがお姉ちゃんたちの席だよ」

「あ、君は……」


 声をかけてきたのはコルトという名の少年だった。

 四人掛けのテーブルの内、二つが空席になっている。


 オリーブが二人を紹介してくれた。


 コルトの隣にいる女の子はアーシア。

 髪色が灰色だから、コルトとアーシアには血のつながりがあると一目で分かった。

 マーリンも含めた四人が今日からルームメイトとなる。


 年齢はコルトが十二でアーシアが十一。

 ウィンディの方が歳上だが、立場的には向こうが先輩だ。


「分からないことはコルトたちに質問してください。私は別件がありますので失礼します」


 オリーブはポニーテールを揺らしながら去ってしまった。


「就業時間は私語厳禁って壁に書いてあるけれども、おしゃべりしても平気なの?」


 さっそくウィンディが疑問を口にする。


「大声を出して周りに迷惑をかけなかったら大丈夫。ほら、あそこの二人なんて延々としりとりしているし」


 コルトが斜め後ろの席を指差す。


「一日中無口だと死んじゃうよ。ねぇ、アーシア」

「息が詰まっちゃう」


 横のテーブルの子が一人、勝手に席を外した。


「あれは?」

「トイレ休憩か散歩じゃないかな。小まめに休憩しないと一日保たないよ。いちいち許可を取る必要はないから」


 コルトの言う通り監視役のスタッフが気にしている様子はない。


(まあ、トイレのたびに声をかけられたら面倒だよね)


 コルトは入口脇にある鐘を指差す。


「あれが鳴ったら強制的に休憩ね。この時、作業しちゃダメなんだ。でも、クビがかかっている子は隠れて魔石を作ったりする」


 それから机の中央にあるはかりを指差した。


「その日の進み具合を毎日報告することになっている。誤魔化すやつもいるけれども、絶対にダメだよ。いつかバレるから。それでファクトリーを追い出される人もいるんだ」

「ノルマが厳しいせいで他人の魔石を盗んだりする人はいないの?」

「ピサロはどうか知らないけれども、ジューロンのファクトリーじゃ無理だね。調べれば誰が作った魔石なのか一発で分かるんだ。もちろん、他人の魔石を盗んでクビになるやつは毎年何人かいる」


 年齢の割にコルトのしゃべり方はしっかりしている。

 きっと苦労して今日まで生きてきたのだろう。


「大体分かった。じゃあ、私たちも作業しよっか、マーリン」

「はいなのです」


 テーブルの中央に小さな木箱があり、魔石の破片がたくさん入っている。

 どれを育てようか物色していると、コルトとアーシアの視線が気になった。


「お姉ちゃんたち、やるね。いきなり一号棟のAクラスに入ってくるなんてさ」

「Aクラス? 一番上ってこと?」

「そうだよ。Aクラス、Bクラス、Cクラスの順。Cクラスの下半分は、二号棟のやつらと入れ替えになる」


 降格というやつだ。

 普通、他所のファクトリーから移籍してきた人の場合、二号棟に入れられるらしく、いきなり一号棟に混ざっている時点で特別らしい。


(ちょっと⁉︎ エリシア様⁉︎ 評価を盛りすぎじゃありませんかね⁉︎)


 そもそもジューロンがエリートの集まりなんて知らなかったし、ウィンディは自分の選択を呪った。


「お姉ちゃんたちの腕前がどんなものか、周りはとても興味を持っている。この会話だって盗み聞きされているよ」

「へぇ〜」


 カタカタと物音がするので何事かと思いきや、マーリンが椅子に座ったまま小刻みに震えていた。


「どうしましょう、ウィンディ。私は三日でクビになるかもしれません」

「大丈夫だよ。マーリンは才能があるんだし。いつも通りにやろうよ」


 魔石の欠片を一個つまんで作業をスタートさせた。

 毎晩のルーティンだから慣れたものである。


(しかし、一日中やるのは辛いな……仕事だから仕方ないか)


 あっという間に昼休みになった。

 驚いたことに多くの子供がウィンディとマーリンの周りに集まってきた。


「あんな短時間でこのサイズになったの⁉︎」

「全然だと思うけれども……」

「すごい成長スピードだよ! さすがピサロでエースを張っていただけのことはあるね!」

「エース⁉︎」


 話がどんどんおかしな方向に転がっているけれども、グレイの顔に泥を塗ることは避けられて一安心した。

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