第177話 今日も過大な評価をもらってしまった
慌ただしい日々が始まった。
まず着手したのは被害の確認だった。
グレイに連れられて魔剣保管庫に入り、それぞれの魔剣が正しい位置にあるか、一本一本確認していった。
魔剣シャングリラは現物あり。
魔剣レギンレイヴは元から無い、といった具合である。
消えていたのは魔剣ヴリトラ、魔剣アモン、魔剣ベリアルの三つだけだった。
取りまとめが終わったら国王へ被害を報告する。
魔剣士サイドから参加するのはエリシア、グレイ、ネロ、レベッカの四名。
「ちょうどいい。ウィンディとマーリンも同席しなさい。エリィと陛下の会話を近くで聞くといい」
キング宮殿に入るのは二回目であり、周りの視線が気になってしまう。
廊下を歩いていると、くだんの王女とすれ違ったので一声かけておいた。
「頑張ってね、ウィンディ」
「あの……シャルティナさんやスパイクさんは?」
「それぞれ任務を与えている。グリューネとミーティアも今朝王都を離れた。これから忙しくなるぞ」
そういうグレイの横顔は猛々しいエネルギーが満ちている。
(グレイ様も王都を離れる日が増えるのかな?)
ずっと近くにいると思っていたから寂しい気はする。
国王との対面は
話の邪魔にならないよう細長い机の端っこにウィンディとマーリンは腰かける。
「陛下とお会いするのは二度目なのです」
マーリンの肩が緊張で震えている。
「お優しい方だから。そんなに身構えなくていいよ」
ミスリルの魔剣士の弟子という肩書きがプレッシャーのようだ。
側近を連れたヘンドリクス七世が入ってきた。
席につくなりエリシアたちの活躍を労ってくれた。
「申し訳ありません、陛下。保管庫にあった魔剣三本を奪われてしまいました」
「エリシアの実力をもってしても止められなかったということは、仕方なかったということだろう。気に病んでくれるな」
賊についても説明があった。
リーダーらしき人物はソフィアという女性。
その下にカイル、バリスタ、ゴルダークがおり、いずれも魔剣使いだ。
「相手が魔剣ラグナロクを持っている。とても驚きであり、憂慮すべきことだね」
「おっしゃる通りです」
一番触れたくない部分にも話は及んだ。
「敵はどうやって魔剣保管庫を開けたと思う?」
「現在、調査しております。封印の結界そのものは有効です」
「ふむ……大した問題じゃないか。何本でも盗めたのに、三本しか盗まなかったということは、単に魔剣を集めているのとは違うようだしね」
「しかし、散らばっている魔剣を集めている気配はあります。我々の方でも紛失している魔剣の収集は進めています」
今回の事件で落命した者はいない。
今後も犠牲者が少なくなるよう努める、とエリシアは約束した。
「私にとって君たち魔剣士は実の子供みたいなものだ。命を捨てる覚悟があるのは知っているが、簡単に死んでくれるな」
在位の長い王だから、これまで多くの魔剣士を見送ってきたのだろう。
退室という段になってウィンディとマーリンは国王から直々に声をかけられた。
「グレイが二人をこの場に連れてきたということは、将来の魔剣士ということだろう。次代を担う者として期待しているよ」
褒められるのに慣れていないマーリンが「ぴぇっ⁉︎」と叫ぶ。
ポンコツな相方の分までウィンディは頭を下げておいた。
「どうしましょう……将来の魔剣士といわれてしまいました」
キング宮殿を離れてからもマーリンの動揺は抜けていなかった。
「エリシア様の弟子というだけで今日も過大な評価をもらってしまったのです。陛下は私のドジっぷりを知らないのです」
「何いってるの、マーリン」
ウィンディは後ろから金髪をなでつける。
「まだ若いんだから。マーリンはこれから急成長するよ」
「若いって……ウィンディも若いじゃないですか」
「マーリンが言っても嫌味に聞こえるよ」
「うぐっ……」
マーリンが急に押し黙ったので、車椅子に座っている顔をのぞいてみると、オッドアイから光る雫が落ちてきた。
それも一滴じゃなくて次から次へと。
「私、ウィンディに嫌味なんて言いません。本当にウィンディのことを尊敬していますし、ウィンディみたいになりたいと思っているのに、それを嫌味として一蹴されるなんて、ひどく傷ついちゃったのです」
「えっ⁉︎ ごめん! 本当にごめん!」
「ウィンディは時々、気持ちを分かってくれないのです。私にも落ち度があるのかと思うと悲しいのです」
「そんなことないよ! マーリンは悪くないって!」
その気はなかったとはいえ、マーリンを泣かせてしまったのは事実で、ひどい自責の念に駆られてしまう。
(マーリンって本当は強いのにな……自己評価が底辺なんだよね)
今は憧れのウィンディを演じるしかないと分かり、ため息にならないため息を吐いた。
そんな弟子を間近で見ていたグレイは、
「エリィはこれから別の用事がある。今後の話もあるし、たまには城下街でゆっくり飯でも食べるか」
と昼食に誘ってくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます