第173話 ではでは、お手並み拝見といきますか

 魔剣保管庫へ急ぐべきだろうか。

 マーリンも連れていくか迷ったウィンディは銀髪をクシャクシャして、窓の外と中を見比べた。


(建物の中に残した方が安全だよね!)


 棚に置いてあった剣をつかみマーリンの前にしゃがみ込む。


「私、いかなきゃ。お留守番を任せてもいい?」

「はい、私は一人でも大丈夫です。それに王宮にはエリシア様もおります」


 剣を握っていない方の手をマーリンは握ってくれた。


「ウィンディは勇気があります。やっぱり将来の魔剣士であり、私の目標なのです」

「ありがとう」


 優しさに背中を押されて廊下へ飛び出す。

 メイドたちも異変に気づいており、何が起こったのか不安そうな表情をしていた。


「おい、ウィンディ!」


 皿洗いの先輩に呼び止められた。


「何なんだ、さっきの変な音は」

「敵襲かもしれません。皆さんは外へ出ないようにしてください」

「何か知っているのか? もしかして、お前が重傷を負ったのと関係しているのか?」


 モタモタしていられないと思い、質問を振り切って駆け出した。


 カイルたち三人組とは思えない。

 彼らはグリューネを前にして逃走した。

 わざわざ魔剣士の本拠地に乗り込んでくるなんて、自殺行為に等しいと理解しているだろう。


(でも、取り上げた魔剣三本の奪還が目的としか考えられないんだよね)


 疑問は他にもある。

 どうやって魔剣保管庫の入口を開けたのか。

 魔剣を盗んだとしても王都から逃げる手段はあるのか。


「ウィンディ!」


 日中に会ったミーティアと合流する。


「こっちって魔剣保管庫がある方向だよね」

「そうです! 誰かが侵入したみたいです!」

「それは……千年に一度くらいの大事件ね」


 ウィンディたちが到着すると四名の魔剣士、エリシア、グレイ、ネロ、レベッカがそろっていた。

 全員が魔剣を抜き放ち、臨戦モードに入っている。


「ミーティアのところの師匠は?」


 ネロが問いかける。


「グリューネ様は城下街のレストランで飲み食いしているかと」

「たっく……良くも悪くも神出鬼没だな。この非常時によく食欲が湧くもんだぜ」


 そんな会話を交わしているとシャルティナとスパイクも到着した。


 これで味方は八名。

 その内、七名が魔剣使いである。


 エリシアとグレイはさっきから魔剣保管庫の上を睨んでいる。

 屋根に人がおり、四人が並んでいた。


「よう、青眼の女。また会ったな。オッドアイのチビ助は一緒じゃねぇのか」


 覚えのある声だと思ったら、案の定カイルだった。


「テメェ……汚ねぇ目でエリシア様を見下ろすな」

「怖い顔すんなって。今日はり合う気はねぇよ」


 マーリンに斬り落とされたはずの左手が元通りになっている。

 しかも右手には魔剣ヴリトラが握られている。


「合宿中に攻撃を仕掛けてきた三人組だな」


 グレイが一歩進み出た。


「魔剣の私物化は禁止されているとか、陳腐ちんぷな説教をするつもりはない。どうやって魔剣保管庫を開けたのか気になるが、お前たちの体を調べたら分かるだろう。俺から質問したいことは一つだけ。そこの黒ローブがお前たちの頭目か」


 目深にフードをかぶった人物がいる。

 明るい満月が逆光になっており、ウィンディの位置からだと表情が分かりづらい。


「そうだよ」


 想像よりも若い声がいう。


「でも、頭目って言い方はぞくみたいで嫌だなぁ〜」

「お前たちの罪を数え上げたら十くらいじゃ収まらないだろう。王宮に不法侵入している時点で賊は賊だ」

「だってさ」

「何を今さら」


 黒ローブの人物が水を向けると、バリスタはうんざりしたように首を振る。

 マーリンにお腹を貫かれた部分は傷こそふさがっているが、火傷として残っていた。


「関係ない人々を巻き込むのは本意じゃありません」


 それまで黙っていたエリシアが魔剣アポカリプスを構えた。


「あなた、私と一対一で勝負しませんか」

「え、いいの⁉︎ この場で戦うってこと⁉︎」

「暴力は嫌いですが、魔剣があなた方の手中にある以上、やむをえません」

「じゃあ、手合わせ願おうかな」


 グレイもネロもレベッカも顔をしかめた。

 ミスリルの魔剣士が相手なのに臆する様子がないのである。


(もしかして、エリシア様の正体を知らない?)


 それなら納得という気もする。


「魔剣士全員を相手にしたら負けちゃうけれども、一対一ならいい勝負ができると思うんだよね」

「失礼ですが、私が誰か分かっていますか」

「知ってるよ。ミスリルの魔剣士エリシアでしょう」


 今度はエリシアが顔をしかめる番だった。


 この状況、なんか変だ。

 本人の自信過剰だけならまだしも、カイルたちまで落ち着き払っている。


 エリシアは最強。

 四大魔剣の一つ、魔剣アポカリプスに選ばれている。

 単身でアヴァロンを殺せるほどで、互角に渡り合える人物なんて地上に存在するわけない。


「気をつけろ、エリィ。何かの罠かもしれない」

「だったら罠ごと打ち破るまでです」


 エリシアの魔剣アポカリプスが青白いオーラに包まれる。

 ウィンディにとっては初めての光景であり、あまりの神々しさに鳥肌が浮いてくる。


「ではでは、お手並み拝見といきますか」


 相手は脱ぎ捨てた黒ローブを頭上へと放り投げた。

 明るい満月が隠れた瞬間、二人は同時に足場を蹴る。


なんじが力を天に示せ……魔剣アポカリプス」

「汝が力を天に示せ……魔剣ラグナロク」


 白い光と黒い光が空中でぶつかった。

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