第171話 魔剣保管庫に入るためには……
マーリンを連れて庭園までやってきた。
アーチ状に花々を飾っている場所があって、トンネルの中を通ってあげるとマーリンは大喜びした。
「いつもより迫力があります」
「そっか。車椅子だと視線が低いもんね」
道がデコボコしており振動が激しい。
さぞ不快かと思いきや、なぜかマーリンは笑っていた。
「ウィンディと一緒なら何でも楽しいのです」
「よ〜し。じゃあ、庭を隅々まで回ってみよっか」
ドーム状の温室に到着した。
手入れしている庭師に声をかけて中を見学させてもらう。
「もしかしてその子、エリシア様のお弟子かい」
「そうです。マーリンといいます」
ウィンディが紹介してあげると、本人もぺこりと頭を下げる。
「戦闘があって何人か怪我人が出たらしいね。若いのに大変だね」
「あはは……」
合宿中にトラブルが起きたことは王宮の関係者なら知っている。
詳細は伏せられているから、魔物の襲撃と思っている人が多い。
(だよね……
エリシアはこの事態を重く受け止めて、国王であるヘンドリクス七世へ報告。
彼らが何者で、どうやって魔剣を入手したのか、他にも仲間はいるのか、調査を始めている。
「ウィンディ?」
車椅子を押す足が止まっていたのでマーリンに心配された。
「ちょっと考え事をしていてさ。魔剣にも人格があるみたいな話、マーリンも聞いたことあるかな。悪いやつでも魔剣に選ばれたりするんだなって思ってさ」
クズ野郎のカイルを思い出すと額の傷が
あいつが選ばれたってことは、魔剣ヴリトラが相応しい使い手と判断したことになる。
「ヴリトラというのは、とある神話に出てくる巨悪の名前です」
「お〜、マーリンって意外と詳しいね。つまり、魔剣にも悪いやつとかあるのかな」
「分かりません。そもそも神話と魔剣にどこまで関係があるのか不明ですし。でも、人の性格がそれぞれ違うように、魔剣の性格もそれぞれ異なるようです」
「ふ〜ん……」
魔剣の話をしていたら魔剣保管庫を見たくなった。
珍しい植物を
「あれ? 鍵がかかっている」
木と金属で作られた扉を押してみるがビクともしない。
「当たり前ですよ。この国の心臓部なのですから」
「でも、グレイ様は普通に開けていたと思うけれども」
まさか腕力の問題だろうか。
「結界による封印が施されているのです。もちろん扉を破壊することも不可能です」
「封印?」
扉を開けられるのは王族の直系男子と魔剣士だけ。
「むむむ……マーリンって何気に物知りだなぁ」
「エリシア様の近くにいると、たくさんの知識が身につくのです」
「なんか負けた気がする」
新しく魔剣士に選ばれた者は保管庫の中で血の登録をすませる。
すると次回から自力で扉を開けられるようになる。
「ウィンディが魔剣保管庫に入りたかったら、グレイ様にお願いするしかないのです。魔剣士の双子というなら話は別ですが」
「どうして双子だと別なの?」
「それはですね〜」
マーリンが物知り顔になって人差し指を立てる。
「双子というのは血液がほぼ一緒らしいです。だから魔剣保管庫に入れるとエリシア様がおっしゃっていました」
「そうなんだ。まあ、王宮に侵入するのが難しいし、セキュリティ上の問題はないのかもね」
石の建物を後にしたウィンディたちは、座って休憩できる場所を探した。
部屋からボトルに詰めた紅茶とクッキーを持ってきている。
「これは深刻そうです」
マーリンが小声いう。
中にいたのはシャルティナとスパイクだった。
二人とも今日から外出の許可をもらっている。
「私、魔剣士になるの諦めようかな」
沈んだ声でいうのはシャルティナ。
「何いってんだよ。俺らはバックアップ要員だろう」
「戦ったから分かるでしょう。私たち、全然強くない。あいつらに歯が立たなかった」
「そりゃ、相手が人間だったから。野良の魔剣使いがいるなんて聞いてねぇよ。魔物が相手ならもっと上手く戦えた」
「そういう問題じゃない!」
「じゃあ、どういう問題なんだよ!」
「ネロ様やレベッカ様なら、あんなやつらに負けなかった!」
スパイクが押し黙ったのは同意の証拠だろうか。
「一対三でも勝っていた。グレイ様やファーラン様でも勝っていた。魔剣士になるってことは、そんな人たちと肩を並べるってことだよ。足を引っ張る未来しか見えないよ」
シャルティナは膝を抱えて長大なため息を吐く。
「いいじゃねぇか」
「はぁ?」
「弱くてもいいじゃねえか。歴史上、すべての魔剣士が戦闘に秀でていたわけじゃない。弱いなら弱いなりに、自分より強い弟子を育てたらいいだろう」
「あのね……」
険悪だったムードがピークを迎える。
「スパイクはお金持ちの家に生まれたから正論吐いたり気取ったセリフがいえるんだよ」
「だったら、シャルティナは何のために努力してきたんだよ。魔剣に選ばれた日、喜んでいただろう」
「ネロ様に認めてほしかったから……ネロ様の側にいたかったから……私が頑張ってきた理由なんて、けっきょく自分のためだよ」
ウィンディの胸まで痛くなり、無意識の内に服の上から手で押さえてしまう。
「それじゃ、シャルティナに憧れている子供たちはどうなるんだよ。やつらの立場がないだろう」
「分かっているよ! 分かっているから悩んでいるんだろうが! これだから良いところの坊ちゃんは! バ〜カ! バ〜カ!」
「何だと⁉︎」
二人とも怒るくらいの元気はあると知りホッとした。
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