第158話 いい加減、諦めて仲良くしろよ

 次に出会ったのは起き抜けのマーリンだった。

 周囲をキョロキョロして何かを探している。


 大切な物でも落としたのだろうか。

 気になったウィンディは大きく手を振った。


「お〜い! マーリン!」


 こちらの存在に気づいたマーリンは一度ふらついてから全力ダッシュしてくる。

 そのままウィンディの胸に飛び込んできたので、草むらに押し倒されそうになった。


「よかったです!」

「どうしたの⁉︎ 泣きそうな顔しちゃって⁉︎」

「夢を見ていました」


 ウィンディが大怪我する夢だったらしい。

 正夢じゃないかと心配して探しにきてくれたのだ。


「どこか痛いところはありませんか?」

「あるわけないよ。見ての通り私は元気だよ」

「本当に怪我していませんか?」

「心配性だな〜」


 髪の毛をクシャクシャすると、お花畑みたいな香りが立ちのぼる。


 わざわざウィンディを探しにくるなんて本当に可愛い。

 小さな妹ができたみたいで、もっと愛でたくなる。


「夢の中の私はどこを怪我していたの?」

「詳しくは分かりませんでした。でも額から血を流している様子でした」

「崖から落ちちゃったのかな? 私って、あまり怪我しない方だけどな」


 おでこに触れてみるが、もちろん無傷だ。


 合宿地には四名の魔剣士がいる。

 魔物に襲われる心配もなく、この世界でもっとも安全な場所だろう。


「大丈夫だよ。近くにグレイ様やエリシア様がいるもん。魔物が出たとしても、サクッと倒してくれるよ」

「なら安心です。驚かせてすみません」


 ようやく納得したマーリンはほろ苦い笑顔をくれた。

 二人でおしゃべりしながら朝露あさつゆの残っている道を歩く。


「久しぶりにアレを見たいです。ウィンディが未来視するやつ」

「うん、いいよ」


 遊びで能力を使うな、とグレイから言い含められているけれども……。

 定期的に力を使っておかないと実戦で役に立たない気がする。


「これからマーリンを待ち受ける未来はね……」

「何でしょうか」


 露骨にわくわくするマーリンが可愛い。


「エリシア様に挨拶しにいって、美味しいクッキーをもらいます」


 これは本当だ。

 魔剣士らが寝泊まりしているテントの方へ向かうと、切り株を椅子代わりにしてお茶しているエリシアを見つけた。

 残り三人も一緒にいる。


「おはようございます、エリシア様。朝の挨拶にやってきました」

「おはようございます、マーリン。今日も一日楽しく過ごしましょうね」


 それからグレイたちにも挨拶していく。


「そうだ」とエリシアが木箱を取り出した。

 中には色とりどりのクッキーが詰まっていた。


「ウィンディとマーリンにも一枚あげます。好きなやつを選んでください」

「本当にウィンディが言った通りなのです!」

「ん?」


 グレイと目が合ってしまったが、笑って誤魔化しておいた。


 紅茶を一杯分けてもらい、談笑の輪に加わっていると、シャルティナもやってきた。

 どこで集めてきたのか、きれいな花束を持っている。


「おはようございます、皆様方」

「ちょうどいいところに来たな、シャル」


 ネロは手元のクッキーを半分に割り、片方を弟子の口に入れてあげる。


「合宿前にレベッカが結界を張っていただろう。あれの解除をシャルに頼みたい」


 結界の正体は魔法道具マジック・アイテムだ。

 会場を包むように石を配置しているらしい。


 ネロは一枚の地図を手渡す。

 印のついているポイントに石が置かれている。


「シャルもいつか魔剣士になるからな。合宿の段取りをそろそろ覚えた方がいいだろう」

「はい! お任せください!」


 シャルティナがピシッと敬礼する。


「あと、スパイクとミーティアも連れていけ」

「ミーティアはともかく、なんでスパイクなんかと⁉︎」

「二人とも将来の魔剣士候補だろうが。いい加減、諦めて仲良くしろよ」

「諦めて仲良くって……はいはい、分かりましたよ」


 やり取りを見ていたエリシアとレベッカが同時に笑う。

 二人の不仲はわりと有名らしい。


 シャルティナにお願いしてウィンディとマーリンも一緒についていくことにした。


(もしかしたら将来、シャルティナさんと一緒に魔剣士になっているかもしれないしね)


 途中、アッシュを見かけたので誘っておいた。

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