第153話 模擬戦と三つのリーグ

 夜明けまでに一個だけ。

 やり遂げないといけない仕事があった。


 模擬戦のリーグ表を作るのである。

 リーグは強さ別に分かれており、上級リーグ、中級リーグ、初心者リーグの三つとなっている。


 まずは初心者リーグ。

 今回の合宿が初参加、つまり見習いになってから一年が経っていない者はこのリーグに入れられる。


 対象者はウィンディやマーリンだ。

 アッシュも初心者リーグに入る権利はあるのだが、傭兵としてのキャリアが十分なのと、上のリーグでも通用するので、本人に確認をとって上級リーグに加えている。


(ウィンディは中級リーグでも通用するかもしれないが……)


 今は自信をつけさせたい。

 そんな判断の下、下位のリーグに残しておいた。

 どうせ来年になったら上級か中級に混ぜられる。


 これで初心者リーグのメンバーは決まった。

 ちょうど二十人、総当たりで順位を決定する。


 残った百名ほどが同数になるよう、上級リーグと中級リーグに振り分けていく。

 グリューネの弟子の強さはよく分からないから、ミーティアに来てもらって、おおよその実力順を教えてもらった。


 ほぼ五十名ずつ。

 上級リーグと中級リーグも決まった。


 こっちは総当たりじゃない。

 十名ずつの小リーグに区切って、その中で総当たりをやる。

 すると全員に一位から十位までの順位がつく。


 翌日になったら一位と二位だけを集めたリーグ、三位と四位だけを集めたリーグという具合に組み替えて、その中で総当たりをやる。


 トップリーグの優勝者が今回の合宿のチャンピオンとなる。

 確率からいうとシャルティナ、スパイク、ミーティアの誰かで決まりだが、三人の実力は伯仲しており、その先はまったく予想できない。


「じゃ〜ん! できました!」


 エリシアが完成させたリーグ表をグレイ、ネロ、レベッカの三人でチェックした。


「悪いけれども、今年はうちのシャルがスパイクに勝つぜ」


 ネロがさっそく宣戦布告した。


「言ってくれるね。うちのスパイクだってこの一年、成長していないわけじゃない」


 レベッカも受けて立つ。


 高弟同士のバトルは盛り上がる。

 師匠が見ている手前、本人だって手は抜けない。


 二日目の朝食が終わり次第、目立つところにリーグ表を張り出した。

 さっそく弟子たちが殺到してきて、自分や友達の名前を探している。


「私の名前はどこでしょうか?」

「あったよ! マーリン! 私と同じ初心者リーグだよ!」

「はぅ……緊張します」


 当たり前だが、ウィンディとマーリンの直接対決も予定されている。


「ウィンディと剣を交えるなんて私には無理なのです」

「大げさだな〜。防護結界シールドを張っておけば怪我なんてしない……」


 そこでウィンディは青ざめた。

 マーリンは魔法が一切使えない。

 つまり防護結界シールドも張れない。


「大丈夫ですよ」


 その心配に答えをくれたのはエリシアである。


「この腕輪をつけておけば自動的に防護結界シールドを張ってくれます。今日のために用意した魔法道具マジック・アイテムなのです」


 そういってマーリンの腕に翡翠ひすい色のリングをつけてあげる。

 魔力はエリシア由来なので、性能は保証されている。


「エリシア様の防護結界シールドってことは、マーリンが無敵なんじゃ……」

「残念でした。性能は他の見習いたちと同等に抑えています」


 師匠からプレゼントをもらったマーリンは照れを隠すように笑って、リングのある位置をさすった。


「これからルール説明があります。一緒に見にいきましょうか」


 デモンストレーションとして、グレイとネロが対峙する。


「模擬戦のルール説明です。今回はお互いの防護結界シールドを破壊した回数で競います」


 審判役のレベッカが出てきて、砂時計をひっくり返した。


「相手の防護結界シールドを一回破壊すると……」


 ネロが防護結界シールドを張り、グレイの大剣がそれを斬り裂く。


「このように一点です。制限時間以内に三点取った方が勝利です。両者とも三点取れずにタイムアップとなった場合は、得点の多い方が勝者となります。同点のままタイムアップを迎えた場合は、どちらかが一点リードするまで延長戦を行います」


 リングアウトすると相手に一点が入る。

 試合中に武器を落としても相手に一点が入る。


 エリシアの説明を弟子たちは熱心に聞いている。


「今年も優勝者にはメダルが贈られます。上級リーグで一位になった人には豊穣ほうじょうの女神エリシアのメダル、中級リーグで一位になった人には戦争の神マルスのメダル、初心者リーグで一位になった人には商売の神様ヘルメスのメダルです。私も、ここにいる三名の魔剣士も、ずっと昔に女神エリシアのメダルをもらいました。みなさんも頑張ってくださいね」


 いったん解散して、トイレ休憩に入る。


 緊張しているであろうアッシュとウィンディを呼び、グレイは励ましの言葉をかけておいた。

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