第151話 魔女の渓谷《ウィッチ・バレー》

 最後の参加チーム。

 魔女の渓谷ウィッチ・バレーの三十人がやってきた。


 率いているのはピンク色のロングヘアに丸眼鏡の女性で、魔女らしい三角の帽子、丈がお尻のところまであるコート、腰のところには長いリボン、胸元をやや強調した服に、前が短くて後ろが長いスカートをはいている。


 色めき立ったのは男子の面々である。

 三十人すべてが若い女子で構成されており、さっそく好みのタイプを探している。


 一方、シャルティナをはじめとする既存の女子たちは白けた表情になる。

 男女比が一気に崩れたのもあるし、魔女の渓谷ウィッチ・バレーのメンバーには美貌びぼうの持ち主が何名かいるので、プライドが許さないのだろう。


「ちょっと、スパイク。君の目、いやらしいよ」

「よしっ! 決めた! いつか死ぬなら魔女の渓谷ウィッチ・バレーがいい!」

「君って意外とバカだね」


 シャルティナが軽く殴っているが、お花畑のスパイクには少しも効いていない。


 とりあえず挨拶を交わした。

 まずはエリシアから、次にネロとレベッカ、そしてグレイの番となる。


「お初目にかかります、グレイ様。エメラルドの魔剣士グリューネの高弟、ミーティアと申します」

「短い間だがよろしく、ミーティア」


 ピンク髪の女性が折り目正しく礼をしたので、グレイは少し驚いた。


「いかがされました?」

「いや、君は常識人なのだな」


 グレイは少し古い話をした。

 ミーティアの師匠も、その師匠も奇行が目立つような魔女だった。

『こいつは面倒臭そうな女性だな……』と初対面で思わせてくる何かがあった。


「ああ、私の師匠ですか。おっしゃる通り、一年中どこにいるのか分からないような人です。魔女の渓谷ウィッチ・バレーの管理も私に任せているような状態で……」


 ミーティアが朗らかに笑う。


 エメラルドの魔剣士グリューネ。

 曲者ぞろいの魔剣士の中で一番の変わり者かもしれない。


 もう一度頭を下げたミーティアは他の高弟のところへ向かう。


「お久しぶりね、シャルティナ、スパイク」

「師匠の代行なんて貫禄かんろくがあるね、ミーティアは」

「また会えて光栄だよ! 合宿が終わったら少し王都を観光していかないか!」


 スパイクはミーティアのことが好きらしいが、気持ちを一ミリも隠そうとしないあたり、さすが貴族という気がする。


 まずはエリシアから開会の挨拶があった。

 滅多にない交流の機会なので、自分のライバルを見つけたり、先輩から技を盗んでください、という内容だった。

 くれぐれも大怪我しないように、とも。


 レベッカから注視事項について説明があった。

 この山には軽い結界が張られており、合宿中は山から出ないように、というお達しだった。


 時刻は夕方。

 これからみんなで食事して一日目は終わる。


「さっそく料理バトルといきますか。シャルティナ組、スパイク組、ミーティア組でそれぞれ料理を作ってください。私たち魔剣士が採点します。食材はたっぷりありますから、自信のあるメニューで勝負してください」


 ちなみにアッシュ、ウィンディ、マーリンの三人はシャルティナ組に加えてもらう。


 まずは代表の三名が集まった。

 作るメニューが被らないようにするためだ。

 メニューが決まったら仲間たちのところに帰って、さっそく指示を飛ばし始める。


 料理は味がすべて。

 というわけじゃない。


 いかに統率が取れているか。

 仲間同士でどこまで連携できるか。

 作るプロセスも採点ポイントとなる。


 平均年齢がもっとも低いのはシャルティナ組だ。

 七歳くらいの子供もいて、彼らが手持ち無沙汰にならないよう、シャルティナが優しく指示を出してあげる。


「君たちは野菜を洗ってくれるかな。危ないから包丁には触らないようにね」

「は〜い」


 軍隊のように統率が取れているのはスパイク組。

 リーダーが次々と指示を飛ばして、メンバーが忠実に動いていく。


「エリシア様の御前だぞ! 手を抜くやつは俺が許さん!」

「イエッサ〜!」


 マイペースなのはミーティア組だった。

 一人一人が好き勝手に動いており、ミーティアは自分が手を動かさない代わりに、指示を出す回数も最小限だった。


「塩ってどのくらい入れんの?」

「適当でいいっしょ〜」


 みたいなノリである。

 一番笑顔が多いのもミーティア組だろう。


 グレイは自分の弟子の様子を見に行った。

 案の定というべきか、ナイフの使い方が上手いのはアッシュ。

 慣れた感じで次々と野菜の皮をむいていく。


 逆に不器用なのがウィンディとマーリン。


「マーリン、手が震えているよ。自分の指を切らないようにね」

「ウィンディの方こそ。見ていると逆に緊張しちゃいます」


 そこにエリシアがやってきて、野菜の切り方をレクチャーしてあげる。

 すると周りの子供も集まってくる。


「エリシア様、こっちも手伝って〜」

「え〜! ずる〜い!」


 エリシアの争奪戦が始まってしまい、本人は苦笑いしていた。


 三チームの料理がそろった。

 グレイたちが採点するわけであるが、クオリティ面は一択だった。


 ミーティア組の作った妖しい色のパスタ入りスープが飛び抜けて美味しい。

 不思議に思ったグレイが隠し味について質問すると『企業秘密です』とミーティアにはぐらかされた。

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