第150話 喧嘩するほど仲がいいというが……

 集まった見習いの内、もっとも周りの注目を集めたのはマーリンだった。


「えっと……この子の名前ですか?」


 大切そうに抱えているのは鳥かご。

 中にはフェアリー・バードのひなが入っており、ピンク色の体を丸めて寝ている。

 お世話すべく合宿会場まで連れてきたのだ。


「可愛い〜」

「エリシア様のペット?」

「いつもマーリンが世話しているの?」


 ネロの弟子から質問攻めにあい、軽いパニックを起こしている。


「この子はナナシーと呼んでいます! まだ名前を決めていないので、名無しのナナシーです! なので仮の名前なのです!」

「ナナシーっていうんだ」

「名前がないのが名前とか変なの」


 中にはマーリンより歳下の少女もおり、どう接したらいいのか分かっていない様子である。


「こらこら、マーリンが困っているでしょう。一度にたくさん質問しない。あと大勢で取り囲まない」


 助け舟を出したのはシャルティナ。

 今日も白ローブをまとっており、ハチミツ色の髪をサイドアップに束ねている。


「メイド服じゃないマーリンって珍しいね」

「はい、合宿のためにエリシア様が用意してくれました」


 マーリンはくるりとターンする。

 上は無地のシャツに、下はひざ丈スカートという組み合わせ。

 合宿中に破けないよう、水に強くて丈夫な生地で作ってある。


 大好きなエリシアから服をプレゼントされて幸せオーラが全身から出ている。


「フェアリー・バードっていうんだ。とても希少な鳥なんでしょ。可愛いな〜」


 すると赤髪の青年がやってきて、横から鼻で笑った。


「何だよ。孤児院出のやつはフェアリー・バードを見るのが初めてかよ」


 マウントを取ってきたのは、レベッカの高弟スパイクだった。

 その左右にいる男女がシャルティナたちのことを小バカにする。


「うわっ⁉︎ 親が金持ちだからって嫌なやつ! あっちへ行こう、マーリン。こいつと一緒にいるとバカが感染うつるよ。他人を見下すことでしか幸せになれないアホだから」

「おい、待てよ」


 スパイクがシャルティナの手首をつかんだ。


「いきなり女の子の肌に触れるなよ。君って、本当に失礼なやつだな」

「お前は女の子ってタマじゃないだろう」


 いきなりの険悪ムードにオロオロするマーリン。

 するとウィンディが駆けてきて、慌てた様子で頭を下げた。


「すみません! うちのマーリンが何かやっちゃいましたか⁉︎」


 すっかりお姉さん気分だ。

 今だってさりげなくマーリンを背中に隠している。


「謝らなくていいよ、ウィンディ。私がマーリンと楽しく話していたら、どっかの低能が絡んできたんだよ」

「何とでも言え。俺だってエリシア様のお弟子さんにご挨拶あいさつしにきただけだ。お前たちに用はない」

「ほら、エリシア様のお弟子さんって。そういう言い方がいちいちムカつくんだよ。合宿の場でも点数稼ぎ? これだから貴族ってやつは」

「礼儀だろう。エリシア様は、我らが尊敬するレベッカ様の上官なのだから」


 黙ってやり過ごそうか迷ったグレイであるが、ウィンディが巻き込まれているので仲裁することにした。


「やめろ。お前たち。仲間同士で反目するな。魔剣士の世界では実力が重視される。年齢も、性別も、生まれも関係ない」


 片や孤児で、片や貴族。

 ネロ隊とレベッカ隊は水と油のように相容れない。


「マーリン、こっちへ来なさい。エリィが呼んでいる」


 グレイの横まで歩いてきたマーリンは、鳥かごを地面に置いて、スパイクのところへ走った。


「謝ってください! さっきの態度は見ていて気持ちの良いものじゃありませんでした! なのでシャルティナさんに謝罪してください!」

「えっ……俺が……」


 まったく予期しない展開に焦るスパイク。

 良いところの坊ちゃんだから、マーリンくらいの少女から叱られる経験なんて初だろう。


「俺が悪かったですよ。喧嘩腰で話しかけてスミマセン。不快に感じられた方全員にお詫びします」


 しっかりと頭を下げた。


「シャルティナさんもです」

「えっ⁉︎ 私も⁉︎」

「バカとか、アホとか、低能とか、仲間に使っていい言葉じゃありません」

「ッ……⁉︎」


 正論だろう。

 スパイクが謝ってきた手前、自分だけスルーするわけにもいかず、シャルティナも謝罪の言葉を口にした。

 次からは気をつけます、と。


「何だ、お前ら。また口喧嘩か」


 一連のやり取りを遠くから見ていたのはネロだった。

 どこで手に入れたのか、棒状のキャンディを舐めている。


「シャルとスパイク、顔を合わせるたびに喧嘩しているよな。本当は仲がいいのか? いつも同じような喧嘩で飽きないよな」


 大先輩に笑われて二人とも赤面した。


「こんなやつ、好きじゃありません!」

「そうです。俺だって嫌いです!」

「私の方が嫌いです!」

「何とでも言え!」


 喧嘩するほど仲がいいという格言もあったりするが、二人の場合、本当に性格が合わないのだろう。


「スパイクなんか、模擬戦でやっつけてやる!」

「望むところだ! 魔剣イグニスで返り討ちにしてやる!」


 騒ぎに気づいたレベッカがやってきた。

 グレイの口から事情を説明すると、呆れ顔になってため息をついていた。




《作者コメント:2022/10/05》

 Special Thanks, 150 episodes‼︎‼︎‼︎

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