第141話 はじめての魔法街
魔法街へやってきた。
正式名称じゃないのだけれども、
ドラゴンの牙。
人工の魔石。
魔物の毒液。
生きたままの超小型モンスター。
ウィンディは小さな骨を手に取った。
怪鳥の一部らしい。
加工すると魔除けのパウダーが作れる。
(
財布の中身と骨の値段を
今日くらいは美味しい物にお金を使いたい。
マーリンは小さな石を気にしている。
見る角度によって七色に光るのだ。
「それは珍しい天然物の魔石でね」
店主が教えてくれた。
「普通の天然魔石はこんな感じで一色だ。産地によって赤とか青とか緑とか色が違う。複数の色が混ざっている魔石は珍しいのさ」
効果そのものは一般の魔石と変わらない。
コレクションとして価値があるそうだ。
「この石をプレゼントしたらエリシア様は喜ぶでしょうか?」
「う〜ん……どうかな。エリシア様なら、魔石なんてたくさん持っているんじゃないかな」
「ですか……」
マーリンが淡いため息をこぼす。
何かエリシアにプレゼントを渡したいが、予算に限りがあり困っているのだ。
「それにさ、マーリン。魔石の値段を見てみなよ」
「はうっ⁉︎」
全財産をはたいても買えない。
魔法街で売られている品はピンキリで、高い物はとことん高いのである。
「君たち、ミスリルの魔剣士様の縁者なのかい?」
「そうなのです。この子がエリシア様の弟子なのです」
「へぇ〜、驚いた。弟子が誕生したという話は知っていたが、まさか君みたいに可憐な少女とはね。いや、エリシア様が十八歳だから、弟子も若くて当然か」
店内を色々と見せてもらった。
品によっては二割引や三割引になっており、購買欲をぐっとそそられる。
(マーリンが可愛くお願いしたら、もっと値引きしてくれないかな? ダメダメ! 友達を道具みたいに使うのは!)
肝心のマーリンは例の魔石を何回も気にしている。
手に取っては、棚に戻して、ため息をつく。
すると店主が似たような魔石を持ってきた。
こっちは人工の魔石。
値段だって十分の一以下だ。
「君たちも魔剣士見習いなら、自分たちで魔石を作ってみたらどうかな?」
「えっ⁉︎ 魔石って作れるのですか⁉︎」
「もちろん」
天然魔石と人工魔石の違いについて説明してもらった。
「見分ける方法は色々あるが、今回は割愛するよ。人工魔石といっても、百パーセント人工じゃなくて、その中心にはコアとなる天然魔石がある。こういう小さな破片だね」
店主は粒状の天然魔石を見せてくれる。
「これを成長させたら人工魔石になる。お金に困った魔剣士見習いはアルバイト代わりに人工魔石を作ったりするよ。うちの店で買い取ることもある」
「へぇ〜」
魔石というのは魔力を固めた代物。
顔が一人一人違うように、人工魔石も色や形が違ったりする。
「ずっと昔、エリシア様がうちに人工魔石を売りにきたことがあるよ。五年以上前だから魔剣士になる前の話だね。レベッカ様の誕生日プレゼントを買いたくて、お金を必要としていたのさ」
店主は一度奥へ引っ込むと、木箱を手にして戻ってくる。
中に入っていたのは七色の魔石。
きれいな楕円形である。
「宝石みたいだろう。本当は商品にするため買い取ったんだけれども、売らずに家宝にしてある。エリシア様が大物になるという確信があったからね。今じゃ、買い取った額の何百倍という値段がつくかもしれない」
これほど美しい人工魔石、ペンドラゴン中を探しても見つからないそうだ。
「レベッカ様を喜ばせたくて、エリシア様はこの魔石を育てたのですね」
「そうだよ。愛情の結晶みたいなものさ」
許可をもらって触ってみた。
むきたてのゆで卵みたいにツルッとしている。
エリシアの魔力は突出している。
だから作り出される魔石も素晴らしい出来栄えになる。
「君たちも美しい魔石を作れるんじゃないかな。お金に困った時はうちで買い取ってあげるよ。将来、魔剣士になるかもしれない逸材なのだから」
同じことを考えたウィンディとマーリンは顔を見合わせて笑った。
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