第136話 魔剣保管庫と四大魔剣

 そして翌日。


「へぇ〜。マーリンが一人でスライムを倒したんだ」

「はい、エリシア様に私専用の短剣をこしらえてもらったのです。あとグレイ様に対スライムの立ち回りを伝授してもらいました」

「ちゃんと成長して偉い偉い」


 いつものようにグレイ、アッシュ、ウィンディ、マーリンの四人で集まって剣の特訓をやった。

 今まで見学しているだけのマーリンだったが、基礎レッスンと称して体の動かし方を教えることにした。


 性格が違えば指導方法も変わってくる。


 ウィンディは悪いところだけ指摘してやると勝手に成長していくタイプ。

 行き詰まっても自分の頭で考えるし、本当に分からない部分はグレイやアッシュに質問してくる。


 マーリンは教えられたことを忠実にこなすタイプ。

 指示は細かければ細かいほどいいし、注意する時も理由をしっかり説明するのが望ましい。


 どっちが優れているという話じゃない。

 人にはペースがあって、ウィンディとマーリンは極端に違うという話。

 性格だってウィンディは快活でサバサバしているが、マーリンは控えめで自信なさそうにしている。


(マーリンは性格的に魔剣士向きじゃないが……)


 昔のエリシアに似ている。

 あの子も刃物を怖がっていた。

 その後の成長はすべての国民が知っている通りだろう。


「ついて来い。みんなに見せたいものがある」


 グレイが案内したのは石で建てられた三角屋根の建物だ。

 飾り気のない外観だから墓地とかにある霊廟れいびょうに似ている。


 衛兵に声をかけて、重い扉を開けた。

 壁のスイッチを操作して、魔石ランプの灯をともすと、三人の口から驚嘆きょうたんの声があがる。


 武器庫である。

 しかし、ただの武器庫じゃない。

 この国に一千年前より伝わる魔剣の数々が収められている。

 いわばハイランド王国の心臓部。


「すごい……これがすべて魔剣なのですか」


 ウィンディは恍惚こうこつとした表情で中へ入ると、その場にしゃがみ込み、魔剣の台座に触れた。


「この一本一本に使い手がいたのですね」

「そうだ。次の使い手が現れるのを待っている」


 ある程度のレベルまで成長した見習いは、師匠と一緒に魔剣保管庫へやってくる。

 数ある魔剣のどれか一つときずなで結ばれるのだ。


 もし絆が生まれなかった場合、レベル不足ということで一年後くらいに出直す。


「俺はここで魔剣グラムに選ばれた。もう二十年くらい前だ」


 グレイは空っぽの台座の前で足を止める。


 あの頃は隣に師匠がいて、グレイも十六歳だった。

 エリシアが生を受けるより前の話であり、王都も今よりずっと不景気だった。


「空の台座が目立ちますね」


 率直な疑問を口にしたのはマーリン。

 現役の魔剣使いは十数名いるが、空の台座はもっと多い。


「魔剣士が戦死したり行方不明になって、魔剣も帰ってこないことが多い。そういう魔剣は忘れた頃に発見される」


 もし国民が魔剣を拾った場合、国に届け出る義務がある。

 記録によると三年前に一本、傭兵ギルドのメンバーから届け出があった。

 少なくない報奨金が出るため自分のコレクションに加えようというやからは基本いない。


「そこの台座は俺の師匠の魔剣があるべき場所だ」

「えっ……」


 マーリンが弾かれたように顔をあげる。


「魔剣レギンレイヴ。アヴァロンに呑まれたきり行方不明だ。俺が魔剣士を引退するまでに見つけたいとは思っている」

「えっと……私のお師匠様のお師匠様のお師匠様ですか」

「そうなるな」


 グレイは三人を最奥へと案内した。

 特に豪華な台座が四つある。


「国民が魔剣を拾ったら報奨金が出るといったな。魔剣によって額が違う。格のようなものがあると思ってほしい。もちろん、アーサー王の使っていた魔剣エクスカリバーが最上位だ」

「台座は四つあるのに、刺さっている魔剣は一つですね」


 アッシュが言う。


「残っているのは魔剣シャングリラだ。二代目ミスリルの魔剣士が使っていた。そして空になっている台座の一つは魔剣アポカリプスだ。エリシアの愛剣だから紛失しているわけじゃない」


 グレイは空になっている台座の片方を指差す。

 ここが魔剣エクスカリバーのあるべき場所。


「もう一つが魔剣ラグナロクだ。何百年も前から行方が分かっていない。この四つを四大魔剣といって、特に強力な魔剣と定められている」


 もし魔剣エクスカリバーか魔剣ラグナロクを発見したら、王都にでっかい屋敷を建てられるくらいの報奨金が支払われるだろう。


「ねぇねぇ! グレイ様! 魔剣シャングリラに触ってもいいですか⁉︎」

「ああ、いいぞ」


 腕まくりをしたウィンディが魔剣の柄に手をのせると、斥力のようなものに押し返されて尻もちをついた。


「イテテ……」

「レベルが圧倒的に不足しているな」


 アッシュとマーリンが同時に笑った。

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