第130話 ちょっと野蛮な勝ち方

 パーティーに出席してから数日後。

 グレイたちはひらけた原野げんやへやってきた。


 燦々さんさんと降り注ぐ太陽、大自然のきれいな風、小川のせせらぎ、深呼吸したくなるほど澄んだ大空。

 絶好のお昼寝日和だろう。


 木陰に身を隠しているグレイの横にはマーリンがおり、サンドイッチの入った弁当箱を抱えている。


 目と鼻の先に魔物がいる。

 三体のワーウルフだ。


 ワーウルフは二足歩行するモンスターで、手に長柄の武器を持っており、俊敏しゅんびんかつ鼻が利く。

 対するはアッシュとウィンディの二人組。


 アッシュの力量があればワーウルフ三体なんて楽勝だろう。

 問題なのはウィンディがどう立ち回るか。

 さっきから手脚が震えまくっている。


 無理もない。

 初めて魔物と命の取り合いをする。

 練習とは比較にならないプレッシャーが双肩にのしかかっているはず。


(なんか俺の方まで緊張してきたぞ……)


 初戦は大切だ。

 圧勝すれば一生の自信になるし、たった一日で飛躍的に成長できる。

 もし負けたら何年間も引きずりかねない。


 いわば賭け。

 今日までの鍛錬が一回で試される。


 落ち着け、落ち着け。

 呪文のように繰り返していると、ワーウルフ三体が同時に動いてきた。


「来るぞ、ウィンディ!」

「はい!」


 二体はアッシュへ、一体はウィンディへ向かう。

 この時点で怖いらしく、マーリンが「きゃっ⁉︎」と目を閉じてしまう。


 グレイは視線を戦場へ戻した。

 アッシュが大剣を盾のように使い、ワーウルフの攻撃をいなしていた。


『一体はウィンディがトドメを刺すように』

 二人にはそう命令してある。


 ウィンディは相手の空振りを誘った。

 上手い、一撃を叩き込み、すぐに距離を開ける。


 ワーウルフの攻撃は単調だった。

 しっかりと引きつけて、カウンターでダメージを蓄積させていく。


 ワーウルフが槍で突いてくる。

 ウィンディは防護結界シールドを出して軽くいなす。

 すれ違い様に剣を振り抜くと、ワーウルフの横っ腹から真っ赤な血しぶきが飛んで、怒りの咆哮ほうこうがあがった。


 ウィンディは攻撃の手を休めない。

 すぐにターンして敵の背中に剣を突き刺したわけであるが、上半身の動きに足が追いついておらず威力が半減してしまう。


(やっぱり筋力が足りないか……)


 ワーウルフが必死に反撃してくる。

 隣にいるマーリンが「怖いです……怖いです……怖いです」を連呼している。


 最後はウィンディが勝利した。

 馬乗りになって剣の柄でモンスターの頭を殴打しまくるという、ちょっと野蛮な勝ち方だった。


「やったな、ウィンディ。まさか剣を鈍器みたいに使うとはな」

「いや……ホント……夢中で、夢中で」

「分かるぜ」


 大の字になって倒れ込むウィンディにアッシュが手を貸してあげる。


「二人とも怪我していないか」

「平気ですぜ」

「私も」

「初戦なのに無傷なんて大したものだな。よくやった、ウィンディ」

「ありがとうございます!」


 グレイは血まみれの戦場を見渡す。

 小川に伏せているワーウルフの体から真っ赤な血液が絵の具のように流れる。


 マーリンは持参しているナイフを抜くと、慣れない手つきでワーウルフから尻尾の毛を刈りとった。

 王都に帰ったら毛を加工してウィンディにお守りを作ってあげるらしい。

 ワーウルフのお守りには『災難から逃げる』という意味がある。


「初勝利おめでとうございます」

「応援してくれてありがとうね、マーリン」


 ここ数日でウィンディの目つきが変わった。

 絶対に強くなる、という気概に満ちている。

 シャルティナ、スパイクという先輩に会わせたら何か変わるのではないか、というグレイの作戦が功を奏した。


 攻守のバランスもそうだが、相手に向かっていく姿勢が良かった。

 最後は相手の顔面をボコボコにしたのも悪くない勝ち方だった。


「アッシュも見事な戦いだった」

「造作もない敵っすよ」


 昼食のため移動しようとした時、マーリンの目が三つの遺体を気にする。


「群れからはぐれたワーウルフだ。近くの村で報告された被害もコイツらの仕業だろう」

「はい……」


 ちょっと悲しそうな顔をしたのが昔のエリシアに似ていた。

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