第129話 これから目標とすべき姿

 エレガントな曲調の音楽が流れ、シャンデリアの光に照らされた会場を、ネズミのように動き回る二人組がいた。


「料理をコンプリートしようぜ、シャル」

「はい、お供します」


 ネロとその高弟こうていである。

 二人とも口の周りをケチャップで汚しており、大皿いっぱいの料理を持っている。


 同僚をスルーするわけにもいかず、グレイは声をかけた。


「食い過ぎだろう。今日が陛下の誕生日パーティーだということを忘れるなよ」

「知らねえのか。料理は鮮度が命なんだぜ。出された瞬間が一番美味しいんだよ」

「そうですよ!」


 ハチミツ色の髪をサイドアップにしている女性が割って入ってくる。


「せっかく出した料理が手つかずのまま冷めていく。これほど料理人に対して失礼なことはありません。もはや侮辱ぶじょくなのです。よって私たちのような食い意地の張った人間が必要なのです」


 彼女の名前はシャルティナ。

 腰に差しているのは魔剣アイギス。


 王様のいる空間で刃物なんて失礼じゃないか、と思うかもしれないが、王族を守るという名目で魔剣の所持は許されている。


「そうそう、紹介しておく」


 アッシュ、ウィンディ、マーリンの三人が軽く自己紹介する。

 シャルティナは太陽のような笑みを浮かべて三人と握手を交わした。


「シャルティナさんが次のオニキスの魔剣士になるってことですか」


 ウィンディが尋ねると、ネロが笑った。


「どうかな〜。シャルって頭が良くないからな〜」

「ネロ様に言われたくないですよ。よく仕事の予定を忘れているじゃないですか。ボケ始めているんじゃないかって私は心配していますよ」

「へいへい」


 ネロと同じくシャルティナも孤児院の出身である。

 一部の例外をのぞき、ネロの弟子は孤児ばかりなのだ。


 二人と別れてしばらくした後「魔剣士じゃなくても魔剣を持っている人はいるのですね」というウィンディの声が聞こえた。


 次に向かったのはレベッカのところ。

 隣には赤髪の青年が立っており、仲良く談笑している。


「よう、レベッカ。今日くらいは着飾ってくると思ったが」

「ドレス姿は私の性に合わないんだよ」


 レベッカはこの日も甲冑姿だ。

 マントを羽織っており、鎧にも意匠が施されているから、強さと美しさを兼ね備えている印象を受ける。


 ここでも弟子の顔合わせをしておいた。


「俺はスパイク。魔剣イグニスに選ばれし者だ。よろしく」


 ネロのところと違って折り目正しく挨拶される。

 レベッカは騎士階級の出身であり、弟子入りしてくるのも軍人の家系が多い。


「よろしくお願いします」


 ウィンディは前回と似た質問をぶつけた。


「スパイクさんが次のルビーの魔剣士になるってことですか」

「いつ欠員ができるか分からないからね。急に声がかかってもいいよう準備しているつもりだ」

「へぇ〜」


 スパイクの年齢は二十。

 魔剣士デビューしてもおかしくない歳ではある。


「あっ! もちろんレベッカ様がまだまだ現役だと思っていますよ!」

「ふ〜ん……私も若くないからね。早くエリシアたちの代に変わってほしいね」

「いえ! いつまでも補佐します!」


 アハハと笑って退散しておいた。


 シャルティナ、そしてスパイク。

 これからウィンディが目標とすべき姿だろう。


「まず魔剣に選ばれる。それが見習いの目標ではあるな」

「ちなみにグレイ様はいつ魔剣に選ばれたのですか」

「なんだ、そんなことも知らないのか、ウィンディ」


 それまで黙っていたアッシュが口を開く。


「グレイの旦那は十六歳で魔剣に選ばれて、十七歳で魔剣士になった天才的なお方なんだぜ。エリシア様が異常すぎるってだけで、グレイの旦那も十分異常なんだよ」

「すごい! すごい!」


 未熟なままデビューしたせいで、死ぬほど苦労したわけであるが、今となっては良い思い出だろう。

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