第128話 エリシアの勇姿を目に焼き付ける

 パーティーの当日、夕日に染まった王宮の屋根でカラスが鳴いていた。

 いつもは王族の暮らしているキング宮殿に続々と招待客が集まってくる。


 ウィンディはベージュ色のブラウスにスカートという清楚な服装をしている。

 ドレスにすべきか最後まで迷っていたが『私が目立つのもおかしいですから⁉︎』といって飾りの少ない一着に決めた。


 その代わり頭にはお花のブローチがついている。

 上品な銀髪も相まって、良いところのお嬢さんに見えなくもない。


 アッシュは茶色のジャケットにズボンという組み合わせ。

 知り合いの結婚式に参列した時の服装らしく、上等な革靴をはいている。

 普段はボサボサの髪を整髪料で寝かせているから傭兵のような粗野さはない。


「アッシュなのにアッシュじゃないみたい! 紳士みたいな服も持っているんだ!」

「いちおう一人前の大人だからな」


 ウィンディが茶化すと、アッシュは鼻の下をこすった。


 これでグレイ組はそろった。

 会場入りしている招待客はまだ三割くらい。

 グレイが知った顔に挨拶していると、入口のところからどよめきが起こった。


 エリシアとマーリンの入場である。


 師匠のエリシアは青を基調としたドレスを、弟子のマーリンはピンク色のドレスをまとっている。

 イベントに慣れきっているエリシアとは対照的に、マーリンは開幕から目をぐるぐるさせている。


「あの子がエリシア様のお弟子か」

「さぞ豊かな才能があるのだろうな」

「十年後は間違いなく魔剣士というわけか」


 さっそく洗礼を受けている。

 ちょっと可哀想な気もするが、才能あふれる若者の宿命でもある。


 こっちこっちとグレイは手招きした。


「そのブラウス、よく似合っていますよ、ウィンディ」

「エリシア様もとっても素敵です」


 エリシアは姿勢を低くすると、マーリンの頬っぺたに一回キスした。


「私の言いつけ、覚えていますか?」

「はい、ニコニコの笑顔で立っておく、ですよね」

「いい子、いい子。今日くらいは自信を持ってください。あなたは可愛いですから」


 パーティーが終わるまでマーリンはグレイが預かる予定だ。

 エリシアは挨拶回りで忙しいのである。


 また入口がざわざわしたので視線を向ければ、ドレス姿のファーランが黒髪をなびかせながら入場してくるところだった。

 黒が好きなファーランらしく、この日も漆黒のドレスをまとっている。

 白い肌とのコントラストが鮮やかで神話の死神に思えてしまう。


 グレイが声をかけると、ファーランはドレスをつまんで挨拶してきた。


「ごきげんよう、皆様方」

「朝早くから魔物を狩りに行ったと聞いた。よくパーティーの開始時刻までに帰ってこられたな」

「当然です!」


 ぐっと距離が近くなる。


「今回のパーティーはエリシアの初幹事ですからね。勇姿をとくと目に焼き付けるのです」

「勇姿って……いちいち大げさだな」


 エリシアとファーランは同僚である以前に親友。

 特殊な人生を歩んできた二人にとって、互いに目が離せない存在なのだろう。


 ファーランは前屈みのポーズになり、淡いため息をついた。


「あなたがマーリンですね。初めまして。私はサファイアの魔剣士ファーランと申します。エリシアに弟子ができたと知った時は負けた気分になりましたが、仕方ありませんね。こんな子がいたら、間違いなく弟子にしたくなります」


 褒められたと知ったマーリンが赤面する。


「は……は……はじめまして、ファーランしゃま!」


 思いっきり言葉を噛んでしまい笑いの渦が起こる。


「あなたもですよ、ウィンディ。グレイを選ぶなんて、歳の離れた男性が趣味なのですか」

「いやいやいやっ⁉︎ 苦渋の決断といいますかっ⁉︎ エリシア様もファーラン様も魅力的すぎるくらい魅力的といいますかっ⁉︎」


 あわあわと手を振る姿が面白くて、マーリンも笑っている。


「アッシュは何というか、グレイの兄弟って感じですね。実は遠い親戚だったりして」

「勘弁してくださいよ、ファーラン様」


 王宮のシェフたちが続々と料理を運んでくる。

 一見すると華やかなパーティーだが、厨房ちゅうぼうでは怒号が飛び交っているはず。


 会場の隅っこには目の前でオムレツやお肉を焼いてくれるコーナーがある。

 後でマーリンを連れていったら喜ぶかもしれない。


「ほらほら、ドリンクを取りに行きましょう。ものすごい数の飲み物がそろっているのですよ。楽しみですね」


 ファーランが差し出してきた手をマーリンは嬉しそうに握った。


「私たちも行きましょうよ」


 ウィンディに誘われてグレイも歩き出した。

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