第127話 全然服を持っていないです!
グレイの言葉を聞き終えた三人はしばらく黙り込んだ。
手元のティーカップからは細い湯気が立っている。
口笛を鳴らしたのはアッシュ。
その横ではウィンディとマーリンが顔を見合わせている。
「本当にいいのですかい。庶民の生まれ、それも田舎出身の俺たちが、王様の誕生日パーティーに出席しても」
「かまわない。パーティーといっても堅苦しいものじゃない。食事会と思ってくれたらいい。元老院や聖教会の面々もやってきて、立食形式で自由に楽しむ感じだ」
注意点があるとすれば、王様から声をかけられた時は折り目正しく応じることくらい。
あと、ウィンディとマーリンは間違ってお酒を飲まないよう気をつけておく。
「えっ? えっ? パーティーって何ですか?」
マーリンが完全にキョドっている。
「たくさんの人が集まって、おしゃべりする場だよ」
「マーリン、知らない人と話すの苦手です」
「じゃあ、私と一緒にいようか」
ウィンディが手を握ると、お人形のような顔が赤らんだ。
「そうだな。エリィはたくさんの人に囲まれていると思うから、当日、マーリンの面倒はウィンディにお願いしたい。なるべく俺も側にいようと思う。人と顔と名前を覚える場だと思ってくれたらいい」
上流階級の人間が集まるイベントは魔剣士が避けて通れない道だ。
グレイだって魔剣士になったばかりの頃、貴族とどう接したらいいのか分からず困惑した。
『話すの三割、聞くの七割にしておけ』
そんな助言を師匠からもらった気がする。
「グレイの旦那、一個だけ教えてください。当日はどんな服装で向かえばいいですか」
「清潔感のある格好なら何でもいいぞ。わざわざ新調する必要もないし、こっちで貸し衣装を手配することもできる」
気まずそうな顔をしたのはウィンディ。
「私、全然服を持っていないです!」
マーリンも慌てふためく。
「私もメイド服ばかり着ています!」
「その点はエリィも気にしていた。昔にエリィが着ていた衣装を譲ってくれるそうだ。若干サイズが合わないかもしれないが、一日だと思って我慢してほしい」
「我慢だなんて! メチャ嬉しいです!」
出席が予定されている魔剣士は五名。
エリシア、グレイ、ネロ、レベッカ、ファーラン。
他の三名は任務で王都を離れている。
ウィンディは久しぶりにファーランと会えると知り微笑んだ。
「じゃあ、俺はこれから傭兵ギルドに顔を出しますので」というアッシュに招待状を渡しておいた。
「いつもウィンディの相手をしてくれてありがとな」
「お安い御用ですよ、グレイの旦那。俺も好きでやっていますから」
さっそくウィンディとマーリンの服を選ぶことにした。
候補となる衣装がハンガーラック八台分あり、あまりの多さに二人は驚いていた。
目をキラキラさせるウィンディを見ていると、やっぱり女の子だな、と年寄り臭いことを考えてしまう。
「エリィは昔から色んなイベントに出席してきたからな。季節ごとにドレスを用意するから量も増えるんだ」
部屋に二人を残したグレイは、エリシアの執務室へ向かった。
仕事が一段落したのか、バルコニーのところでぐぃ〜と伸びをしている。
「二人は今、パーティー用の服を選んでいる」
「当日が楽しみです。マーリンの可愛さを周りに自慢するのです」
「やめた方がいいと思うぞ。あの子、恥ずかしがり屋だからな」
「師匠だって自分の弟子をお披露目できるのが楽しみなのでしょう」
バルコニーの手すりに
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