第120話 地下迷宮に住まいしガーディアン

 迷宮は深夜のように静かで、生き物の気配がすることもなく、コツコツという靴音と呑気のんきな会話だけが響いていた。


 グレイは頭上に注意しながら進んだ。

 時おり天井が低くなっており、もう二回も頭をぶつけていた。


「地図に書かれている情報が本当に正しいとも限らない。くれぐれも油断しないように」

「二回も頭ぶつけているやつが言っても説得力に欠けるって」

「おい、喧嘩を売っているのか、クソガキ」

「リーダー面するなって意味だよ」

「まあまあ、二人とも」


 三人を待ち受けていたのは多種多様なトラップだった。

 落ちてくるトゲトゲの天井、床から飛び出してくる槍、毒霧の噴き出してくる部屋など。


 トラップの動力源は魔力らしい。

 迷宮全体が一つの大きな魔法道具マジック・アイテムとイメージすればいい。


 ネロの手が壁のスイッチに触れると、奥の方からギアの回転する音が聞こえる。


「ん? 次の罠は何だっけ?」

「壁から矢が飛んでくるみたいです」

「ふ〜ん…………ぐぇ⁉︎」


 お尻に矢を食らってしまったネロは、おしっこを我慢するポーズのまま臀部でんぶから血を流すという、何とも情けない有様になってしまう。


「おい、大丈夫か」

「やべぇ……矢尻が引っかかって上手く抜けねぇ」

「地図の情報によると毒矢らしい。まあ、ネロなら平気か」

「いや、マジで抜けねぇんだって!」


 グレイとエリシアは顔を見合わせて笑った。

 痛がる本人には申し訳ないのだが、顔を真っ赤にして「おい! こいつ! さっさと抜けろ!」と奮闘する姿は可愛らしい。


 役割分担について相談した結果、グレイが尻の矢を引っこ抜いて、エリシアが解毒の魔法をかけようという話になった。


「これって一息に抜いた方が痛くないよな?」

「髪の毛と一緒だよ。ゆっくり抜いたら痛いでしょ」

「分かった。覚悟しろ。いくぞ」

「一思いにやってくれ!」


 ぬん! と一気に引き抜く。

 この瞬間のネロの表情を何かにたとえるなら、尻尾を踏みつけられた猫が近いだろう。


「はいはい、痛いのによく我慢しましたね〜」


 エリシアが優しいお姉さんみたいになぐさめる。


「あ〜あ、メイド服に穴が開いちゃった」

「帰ったら私がってあげますよ」


 気を取り直して先へ進む。

 次に待ち受けているのは大岩が転がってくる通路だった。

 グレイは二人をその場に待機させて、単身でトラップに挑んでみる。


 壁のセンサーが反応。

 ドシン! と重量感のある音が響く。

 グレイは魔剣グラムを構えて、近づいてくる物体との距離をはかった。


 大剣を振り上げ、振り下ろす。

 一瞬だけ競り合う形になったが、押し勝ったのはグレイ。

 大岩の表面にヒビが走って、バラバラに砕け散る。


 攻略法として正しくない気もするが、今は先へ進むのが優先だろう。


「さすが師匠です!」

「ゴールが近いと思うと腕が鳴る。たくさんの仕掛け、よく考えたものだな」


 いよいよ最後のギミックがある部屋へやってきた。

 中央に置かれているのは大きな鎧だ。

 両手に剣を装備している。


 かぶとの目の部分が、ぽう、と赤く光った。

 地図の情報によると『アーマード』という名の魔導兵器で、勝手に侵入者を排除しようとするらしい。


 攻略法も分かっている。

 弱点とされる七つの関節を同時に攻撃したら稼働停止するとのこと。


「いよいよ私の出番ですね」


 エリシアが魔剣アポカリプスを抜いた。


「三百年間待機していた貴方あなたには申し訳ないですが、速攻で終わらせてもらいます」


 真正面から神速の七連撃セイクリッド・ブリッツを叩き込むと、アーマードの体は大きくノックバックして、地面に膝をついた。

 目から光がせていき、死んだように動かなくなる。


「さすがエリシア嬢だぜ」

「瞬殺だな」


 横を通り過ぎる時、ネロがアーマードの鎧を気にした。


「でもよ、こいつ、エリシア嬢の攻撃をまともに食らったのに傷一つ残っていないよな。どんな素材で作られているんだ」

「俺の剣でも試してみるか」


 無駄と知りつつ魔剣グラムで斬りつける。

 鈍い手応えはあったものの、傷らしい傷はつかない。


「ふむ……」


 もしかして、いや、もしかしなくてもアーサー王の遺物だろう。

 ネロが鎧の中に手を差し込んでみるが、中は空洞になっており、何も詰まっていなかった。


「さあ、ゴール間近なのです!」

「クックック……古代兵器の予感がするぜ」


 アーマードの一部を持って帰れないか、グレイは色々と引っ張ってみたが、全身がキツく固定されており、仕方なく部屋を後にした。

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