第118話 いざ、世紀の大発見へ出発

 エリィの喜ぶもの……。


 実は今、エリシアが何を欲しがっているか、グレイは大体予想できる。

 自分の片腕となり、将来は一緒に活躍してくれる、若くて才能あふれる弟子だろう。


(まあ、迷宮の最奥に隠されているのが、エリィの弟子じゃないことは確かだろうな……)


 紅茶セットを片づけ、グレイたちは宝探しに出発した。

 迷宮で尿意をもよおしたら面倒ということで、トイレに立ち寄ることに。


「おい、ネロ。当たり前のように女性用トイレに入ろうとするな」

「いやいや、メイド服で男性用トイレに入ったらマズいでしょ」

「ん? そうなのか?」

「エリシア嬢に聞いてみようぜ」


 ネロの体を抱っこしたエリシアは、男性用トイレでも女性用トイレでもない、第三のトイレに押し込んだ。


「えっ〜⁉︎ ここって妊婦さんとか足腰の悪い老人のためのトイレじゃん!」

「ネロの使用を特別に許可します」

「良かったな、クソガキ」

「こんにゃろ〜」


 尿意の不安が消えたところで今度こそ出発。

 廊下を抜け、角を曲がり、庭に出ようとしたところで、グレイは女性と接触しそうになった。


「おっと」

「あっ⁉︎ すみません! グレイ様!」


 どこかで見た顔だと思った。

 年頃は二十くらい、ハチミツ色の明るい髪をサイドアップに束ねている。

 聖教会のローブをまとっており、腰には魔剣を差している。


「この近くでネロ様を見かけませんでしたか?」

「う〜ん……」


 グレイが振り返ると、ネロはエリシアの背中に隠れて、手で『いないいない』のジェスチャーをしてきた。


「見かけなかったが、会ったら何か伝えておこうか」

「あっ! いえ! いいんです! 今夜、孤児院から食事に招待されていて、ネロ様のことだから忘れているだろうなって! 最悪、私一人でも何とかなりますから!」

「なら、大丈夫だと思うぞ。孤児院がどうとか話していたから」

「本当ですか⁉︎ アハハ……余計な心配でしたね」


 女性は恥ずかしそうに笑うと、エリシアにも頭を下げてから走り去っていった。


「ふぅ〜。大した用件じゃなくて助かった〜」

「あの子、ネロのお弟子さんですよね」

「ああ、オイラの高弟こうていね」


 高弟というのは一番優れた弟子のことで、魔剣士の場合、後継者とほぼ同義である。


 彼女は魔剣に選ばれていた。

 よって次のオニキスの魔剣士になる可能性が大きい。


「レベッカ様! その荷物、俺が持ちますよ!」


 声のした方を向けば、赤髪の青年がやってきて、レベッカの手から半ば無理やり荷物を奪うところだった。


「いつも手伝ってもらって悪いねえ」

「いえ、当然の務めです!」


 青年の腰にも魔剣が差さっている。

 こっちはレベッカの高弟というわけだ。


「そういやグレイも弟子を取ったらしいな。しかも二人同時なんて、どういう風の吹き回しだよ」


 ネロが言う。


「後進の育成も魔剣士の使命というからな。いつまでもエリィの師匠を気取るわけにはいかない」

「ぶぅ〜。私としては、師匠にはいつまでも私だけの師匠でいてほしかったですけれども」

「どしたの? エリシア嬢、嫉妬してんの?」

「してません!」


 思い出せば、ウィンディの口から『グレイ様の弟子になりたいです!』のセリフが出た日、一番ショックを受けていたのはエリシアだった。


「私だって弟子が欲しいんです。ネロやレベッカが羨ましいです。たくさんの弟子に囲まれていますから」

「う〜ん……弟子っていうのは量より質だと思うけどな」


 量をとるか、質をとるか。

 正解らしい正解はない。


 大量に弟子を集めたら、才能にめぐり合う確率も上がるだろうが、一人一人の育成にかけられる時間が減ってしまう。

 後継者になれるのは一人なわけだし、少数精鋭の方がグレイの気質に合っている。


 エリシアの弟子選びはちょっと難しい。

 本人が若いのに加えて、ミスリルの魔剣士だから。


 望む望まないにかかわらず『エリシアの弟子第一号』という期待が常に付きまとうから、プレッシャーに押し潰される可能性がある。

『偉大な師匠の下から偉大な弟子は生まれない』という謎のジンクスも気になるところ。


「ねぇねぇ、ネロの弟子を分けてくださいよ」

「う〜ん、オイラの弟子の中にエリシア嬢が欲しがるような子がいるかな〜」

「いますよ! 先ほどの女の子です! 可愛い子でした!」

「いやいや、あいつ、エリシア嬢より歳上……」

「なら、レベッカのお子さんにします」

「それは悪くないアイディアだ」


 くだらない会話をしていると目的の場所についた。


 温室である。

 庭の一角にガラスで囲まれたドーム屋根の建物がある。

 先代のエリシアが好んだ場所で、外観は何度か建て替えられているが、室内には三百年前のアンティークや石像が残っている。


 地図によると迷宮の入口はこの中に隠されているらしい。


「さあ、世紀の大発見を果たしましょう」

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