第117話 お宝の地図を見つけた!

 庭園に面したティールームへやってきた。

 ファーランも含めた五人でケーキを食べた場所で、ガラス張りの優美な感じがエリシアに似合っている。


「じゃ〜ん! お宝の地図なのです!」


 エリシアが広げたのは古い羊皮紙ようひし

 どんな魔物の皮を使っているのか不明だが、書かれている線はハッキリしている。


 地図だ。

 入口は王宮。

 グレイたちの真下に迷宮が広がっているらしい。


 誰がいつ描いた地図なのだろう。

 よく発見してきたな、というのが正直な感想である。


「千年竜の卵から薬を作るにあたり、王宮に所蔵されている文献を調べまくったのですが……」


 その中の一冊に『三代目エリシアの日記帳』があった。

 書かれている内容はシンプルで、良質な茶葉が手に入ったとか、新しい魔剣士が誕生したとか、今日は大雪だったとか、日記らしい日記といえる。


「こちらが現物です」


 表紙をめくろうとしてグレイは失敗した。

 ツルツルの石と格闘するみたいに指が滑ってしまう。


「封印です。どうやら先代エリシア様と同等か、それ以上の魔力の持ち主じゃないと、日記帳の中をのぞけないみたいです」


 地図はこの中に挟まれていた。

 ロマンチックな見方をすれば、日記帳は単なる入れ物であり、地図の方に価値があるとも解釈できる。


「最低でも三百年前の地図というわけか」


 色あせた地図というのは、年代物ワインのような魅力があって、大人の心もワクワクさせる代物しろものだろう。


「これは贈り物ですよ! 先代エリシア様から私への! 新しい冒険の予感がします!」

「ふむ……」


 グレイは腕組みする。


 迷宮に何か隠されていると考えるのが自然だろう。

 先代エリシアが一枚噛んでいる以上、山のような金銀財宝が眠っていました、で終わる話じゃなさそう。


 ひょっとして……。

 もしかすると……。


「魔剣エクスカリバーなのか」

「魔剣エクスカリバーでしょう!」


 二人の声が重なって同時に笑ってしまう。

 するとドアをノックする音がして白髪のメイドが入ってきた。


「失礼しま〜す」


 この太々しいオーラ。

 目を合わせなくてもネロと分かった。

 コスチュームから伸びる手足の白さは相変わらずで、何を食べたら美少女みたいな肌になるのか、興味本位で聞いてみたくなる。


「ジロジロ見るなよ、照れるじゃね〜か」


 女装ネロは三人分の紅茶をれるとエリシアの横に腰かけた。


「また修練場を壊したペナルティか。成長しないな、お前は」

「ちげ〜し」

「そうですよ、師匠。ネロは神殿にあった石像を壊したのですよ」

「どんなシチュエーションなのだ。むしろ壊した経緯を教えてほしい」

「ほら、神々の像って武器を装備しているだろう。マルス神の持っている槍が超カッケェなと思って借りようとしたら……」


 腕ごと取れちゃった。

 石像は経年劣化していたこともあり、修理代は聖教会が負担するらしいが、エリシアのところへクレームが届いたのだ。

 ちゃんと部下を教育してください、と。


 グレイの口の中の紅茶が苦くなる。


「魔剣士の面汚しだよな。神殿の石像、触ったらダメだろう」

「触るなって言われたら触りたくなるんだよ」

「クソガキめ」


 ネロにも地図のことを説明した。


「宝探しには私と師匠とネロの三人で向かおうと思います」

「ああ、そっか。ネロには王家の血が流れているから……」


 アーサー王の封印。

 直系の男子でなければ開けられない扉がないとも限らない。


「これから出発するわけね。面白そうじゃん」

「はい、最奥にどんな財宝が隠されているのか、師匠と二人で予想していました」

「古代兵器だったら格好いいな。空に浮いちゃうお城とか。地上が洪水に呑まれちゃっても、天空の城だけは平気みたいな」

「私なら万病に効く薬草が欲しいですね。たくさん栽培したら、この世から病気がなくなります」

「ケッケッケ……聖女様じゃん」


 グレイは何が欲しい? と聞かれたので、エリィの喜ぶものなら何でもいい、と返しておいた。

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