第106話 この幼女、ただ者じゃねぇ
(偽エリシアの次は自称魔剣士クラスか……)
しかし、誰だろう。
グレイが腕組みしながら考えていると、ファーランが「あっ!」と手を打った。
「私、その人の正体が分かりましたよ!」
「ほう……ファーランの知っている男か?」
「ネロですよ、ネロ。グレイと互角といったらネロ以外ありえません」
期待した自分がバカだった。
ネロなら田舎から出てきた娘を助けることもあるだろう。
でも、大剣を持っている姿は想像できないし、例の男とはイメージがかけ離れている。
容姿だって子供のはず。
グレイと互角。
この部分を疑うべき。
「なあ、ウィンディ。その男に会いたい。俺たちなら実力を見定められる。本当に魔剣士並みかも含めて。だから案内してくれないか」
「私は構いませんが……その……皆さんのお時間は……」
「大丈夫。エリィ、城下町をウロウロしたい」
「はぁ……」
ウィンディは十六歳で田舎から出てくるくらい行動力がある娘だ。
誰を味方につければいいのか一瞬で決断しただろう。
「分かりました。ご案内します。こっちです」
「そう緊張しなくていい。男を
そう伝えるとウィンディの頬に赤みがさした。
笑うとあどけない印象を受ける。
やがて一軒の酒場についた。
近くにギルドの支部があり、傭兵たちの溜まり場として有名だ。
ウィンディが先頭で入っていくと、値踏みするような視線が一斉に集まってくる。
この依頼人は金を持っているのか。
エサを探す野犬のような目つき。
「よう、お嬢ちゃん、数日ぶりだな」
声がかかる。
男が一人、ポツンと席に座っており、肉料理をかじっていた。
背丈はグレイと同じくらい。
頬のところに二本の傷があり、
椅子の横に立てかけられている大きな剣は、魔剣グラムと同程度の長さがあった。
「お金が貯まった……という感じではなさそうだな」
「今日はお話があってきました。前金はもうすぐ貯まるので安心してください」
「ふ〜ん……そっちの男女は新しく見つけた傭兵かい」
男がぺっと骨を吐く。
「好きにしなよ。お嬢ちゃんが誰を雇おうが自由だ。俺は良心的な額を提示したつもりだ。前金だって二割でいい。破格の条件だと思うがね」
ウィンディは机にダンっと両手をつく。
「あなたの実力って、どうなのですか? ドラゴニアはとても危険な土地と聞きました。奥地に入ると、魔剣士ですら命を落としかねないと。本当に千年竜の卵を取ってこられるのか、心配になってきました」
「おいおい、その手の質問は傭兵を一番傷つけるぜ。とはいえ不安になるのも分かる。ドラゴニアがヤベェ土地だってことは俺も聞いたことがある」
エリシアがぴょこんと椅子にジャンプする。
何をするかと思いきや、香ばしいお肉に目を輝かせる。
「美味しそう。エリィ、食べたい」
「おう、食え食え。端っこの方は手つかずだから」
「いただき……もぐもぐ……うまぁ〜」
「だろう」
「お肉のお礼にエリィからアドバイス。ドラゴニアは危険がいっぱい。おじさんだと竜のエサになっちゃう」
「ほう……実際に見てきたようなことを言うな」
「うん、エリィくらい強かったら平気だよ」
エリシアは相手を挑発するように小指で耳の穴をホジホジする。
「エリィから忠告。やめた方がいい」
「ほう……ご親切にど〜も」
男の顔から笑みが引っ込んだ。
どうやら気づいたらしい。
生意気でプニプニしてひ弱そうな幼女が自分より格上だということに。
(エリィも人が悪いな……わざわざ相手を怒らせて実力を測るとは)
しかし、周りは黙っちゃいない。
傭兵仲間がバカにされたことに激怒して集まってくる。
「おい! アッシュ!」
「何か言い返してやれ!」
「俺たちの中じゃお前が一番強いんだ!」
「まさか子供に
アッシュと呼ばれた男は机を殴った。
お前ら! 黙りやがれ! と。
場の空気が一瞬にして凍りつき、食器の落ちる音がした。
「分からないのか。この幼女、ただ者じゃねぇ。触れちゃいけないオーラがひしひしと伝わってくる。この子が本気になったら、俺は息の根を止められるかもしれねぇ。上手く説明できないが、この子が一言も嘘を言っていないことは断言できる」
「おいおい、アッシュ……」
「ビビるなんてお前らしくねぇよ」
「どうしたんだ。お腹でも壊しちゃったのか」
するとマッシュルーム頭の男が悲鳴を上げた。
「俺、この子を見たぞ! 先日の大食いコンテストだ! 乱入してきたモンスターを瞬殺しやがった! 将来はミスリルの魔剣士になると目されていて……」
それ以上はしゃべるなという意味を込めて、グレイはマッシュルーム頭の口をふさいだ。
「おい、アッシュとやら」
お店の正面を指差す。
「外に出ろ。エリィの実力に気付いたってことは、少しは骨があるらしい。俺の手で力量を測ってやる」
指名を受けたアッシュの喉がゴクリと鳴った。
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