第100話 季節外れの雪が舞う
一人一人自己紹介していった。
「ペンドラゴンに住んでいます。エリシアと申します。将来の夢はミスリルの魔剣士になることです」
「ほうほう……て、ミスリルの魔剣士⁉︎ こいつはクレイジーだぜ! もし君がミスリルの魔剣士になったら、三代続けてエリシア様になっちゃうよ⁉︎」
目の前にいるのが本物と知らない司会役は、さっきからノリノリである。
メンバー紹介が終わると、各々は席につき、戦いのゴングが鳴るのを待つ。
「いよいよですね、グレイ。エリシアの晴れ舞台ですよ」
「すっかり母親気分だな。本人以上に舞い上がっちゃうなんて」
「当然です! この会場を見てください! 客席の子を含めてもエリシアが一番可愛いのです!」
「はいはい……」
エリシアが手を振ってくると、ファーランもその場でジャンプしながら振り返す。
メニューがお披露目される。
山盛りの
ビールが欲しくなるよな、とか
エリィ一人だけ異様に小さい。
十二歳以下の部門というが、ほとんど十二歳で、一人くらい十一歳が混じっている感じ。
どの子もエリシアの二倍は体重がありそう。
勝負にならない。
エリシアは場違いなところに来てしまった。
それが素人の感想だということを、もうすぐ本人が証明するだろう。
(ギリギリ負けてくる、か)
お手並み拝見と思った時、
「レディ〜、ゴ〜!」
と開始の合図があり、ソーセージの大食いが始まった。
エリシアは一歩も引かない。
両手でつかんだソーセージを交互に口にねじ込んで、水を一口だけ飲んで、またソーセージをねじ込んでいく。
「あわわ……エリシアったら⁉︎ あんな食べ方、いつか
「心配するな、ファーラン。エリィはさっきから周りの様子を観察している。そのくらいの余裕はあるのだろう」
「ですか……」
隣の少年と目が合う。
バトル開始前、エリシアのことを『チビ助』と挑発した子だ。
ライバル同士にもかかわらず、
「このソーセージ、美味しいね」
なんてエリシアが声をかけるから、
「当たり前だ。名店のソーセージだからな。……いや、そうじゃない! 余裕ぶっこいていられるのも今のうちだぜ!」
と少年は油でギトギトの指を突きつけた。
「はむはむ……あなたが前回優勝した人?」
「もぐもぐ……優勝したのは俺の兄貴だ。兄貴は十三歳になって、もう出場できないから、今年は俺が優勝をもらう」
「へぇ〜。去年はお兄さんが優勝したんだ」
エリシアがニッコリ笑うものだから、ソーセージを口まで運ぶ少年の手が止まった。
「優勝できるといいね。一回きりのチャンスだもんね」
「変なやつだな。競争相手を応援するなんて」
どちらもペースを落とすことなく、スコアを示す皿が淡々と積み重なっていく。
他の六名はといえば、お腹を抱えてうずくまる子、吐き気を訴える子、露骨にペースを落とす子といった感じで、トップ集団から脱落していく。
まさかの一騎討ち。
本命と大穴の直接対決になった。
「見てくださいよ! グレイ! エリシアがあんなに真剣です!」
「ああ、見てる、見てる」
勝負が長引きそうだと思ったグレイは、飲み物を調達すべく、いったん場を離れた。
……。
…………。
エリシアが初参加したフードファイトは、思いがけぬ幕切れを迎えた。
「うわっ! 魔物だ!」
そんな声を聞いたグレイは驚きでジュースを落としてしまった。
気のせいじゃなければイベント会場の方から聞こえた。
現地にはファーランがいる。
丸腰だろうが大体の魔物は瞬殺できる。
(幼女姿のエリィが実力を披露する事態だけは避けたいが……)
グレイの不安は思いっきり的中した。
会場にはモンスターとファーランがおり、にらみ合うように対峙しているが、ファーランは中々手を出そうとしない。
「グレイ……どうしましょう」
相手はウォータースライム。
ドロッとした化け物で、街の下水道から出てきたらしい。
透明なボディの中には市民が捕らえられている。
人命を奪ってしまうのだ。
ウォータースライムをぶった斬ると。
「あいにく私は器用な魔法を持ち合わせておらず、魔法のコントロールにも自信がある方じゃありません」
「くそっ、一番厄介なタイプの敵だな」
こんな敵、百匹相手でも一網打尽にできる。
人質さえいなければ。
女の子が泣き叫んでいた。
私のパパを助けて、と。
近くにネロやレベッカがいないことを、この時ほど悔やんだことはない。
(仕方ない、俺がやるか、ウォータースライムには氷の魔法が効果的だろう)
グレイが左手で狙いを定めていると、
「エリィに任せて!」
という声が響いた。
ウォータースライムに氷の花が咲き、表面を次々と削っていく。
人質が捕まっている部分は避けながら確実に体積を奪っていく。
大打撃を受けたウォータースライムは人質をリリース。
生き残りを図るべく下水道へ逃げようとした。
エリシアは逃走を許さない。
もう一度
「エリィの大勝利なのです!」
イベント会場に季節外れの雪が舞った。
「うぉ⁉︎」
「すごい!」
ポカンを見守っていた司会役は、観客の声で我に返ると、
「これが将来ミスリルの魔剣士になる子の実力かぁ〜!」
と高らかに
《作者コメント:2022/08/16》
Special Thanks, 100 episodes!!‼︎
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます