第97話 幼女エリシアの家族ごっこ
外行きの服装に着替えた。
グレイは旅人が好みそうなジャケットとズボン姿に。
ファーランは落ち着いたチェック柄のワンピースの姿に。
この格好なら城下町でも目立たない。
というのはグレイに限った話であり、ファーランは美人で、エリシアは美幼女だから、嫌でも人目につきそうだ。
「グレイパパ」
エリシアが指差してくる。
「俺がパパなのか?」
「エリィ、お金持ってない。だからパパの財力が頼りなの」
「はいはい」
これも上官命令と思って頭を
「ファーランママ」
「まあ⁉︎ 私がママですか⁉︎」
「うん、エリィとファーランママは血がつながっていないの。でも、そこらへんの家族より仲がいいの」
「私とグレイは夫婦という設定ですね。分かりました。付き合いましょう」
「適当でいいぞ、ファーラン」
「仲良し三人組なの」
各自の魔剣は王宮に置いていく。
グレイだけ腰に剣を装備しているが、魔法がある以上、飾りのようなものだ。
「留守番は私たちに任せな」
裏口のところまで見送ってくれたレベッカにバイバイと手を振る。
「行ってきま〜す!」
いざ、城下町へ。
今日は一切の任務を忘れて、グレイも羽を伸ばそうと思う。
「いち、に、いち、に」
「歩くたびに声を出すなんて、エリシアは可愛いですね」
「ファーランも一緒にやるの。声を出した方が絶対に楽しいの」
「いち、に、いち、に……本当ですね。歩くだけで楽しいなんて不思議です」
「ファーランとお散歩、エリィも楽しい!」
「まあ⁉︎」
人たらし攻撃のせいでファーランのデレデレが止まらなくなり、いつの間にか手まで結んでいる。
「グレイパパも手をつなぐ」
「俺も、か?」
真ん中にエリシア。
その左右をグレイとファーランが並んで歩く格好になった。
ファーランと目が合い、自然な笑みがこぼれる。
これじゃ本当の家族みたいですね、と。
「いやいや、ファーランとエリシアが母娘なのは無理があるだろう。年齢差からして」
「エリシアくらい可愛かったら許せます」
「そうかよ」
メインストリートには朝食の匂いが充満していた。
これから働き始める人々が思い思いの料理を食べている。
人気なのはサンドイッチの
パンなら手が汚れにくいし、本当はマナー違反だが、歩きながら食べられる。
「王都にはあらゆる地方の料理がありますね」
「ドラゴニア地方の料理もあるのか?」
「探せばあります。ほら」
ファーランが指差したのはお
小さく刻んだ肉と野菜が入っており、味つけは塩のみという、胃袋に優しそうな一品である。
「いらっしゃい」
トコトコ近づいたエリシアに店主のおばちゃんが気づく。
「お粥、三人で一つを分けてもいいですか」
「ああ、いいよ。席まで持っていくから、空いているところに座りな」
「このお店って、魔剣士様が来ることもあるの?」
「魔剣士様?」
おばちゃんは欠けた歯を見せて大笑いした。
「ないない! こんな庶民向けのお店! そうさな、私はドラゴニアで生まれたんだ。もしサファイアの魔剣士様が来てくれたら一生の思い出になるだろうな。今はファーラン様といって、若くてきれいな人なんだ」
思いがけぬ発言に、ファーランが限界まで赤面する。
エリシアはテーブルに
「サファイアの魔剣士様は若くてきれいだって」
「ちょっと、エリシア、恥ずかしいじゃないですか」
「ママ、日を改めて一人で来るべし」
「もう……」
魔剣士が三人いると知らないおばちゃんは、
「お待たせ」
とお粥の容器を置いてから、食べ終えた客の食器を下げていく。
「これがドラゴニア地方のスプーンか」
レンゲというらしい。
陶器で作られており、持ち手は短い反面、一回にすくえる量は多い。
「はむはむ……お粥、美味しい……みんなで食べると、もっと美味しい」
「か……可愛い」
「ママもエリィと一緒に食べる!」
「はい!」
食事する時、ファーランは髪が料理に入らないよう左手ですくうのだが、妙に色っぽい
「ママ、お口あ〜ん」
「ひぇっ⁉︎ 私が食べさせてもらう側ですか⁉︎」
「うん、いつもの感謝なの」
「あははは……」
二人の親密なやり取りを目にしたおばちゃんは、
「仲の良い家族だね」
と幸せそうに笑った。
グレイは頭を下げてから、お粥の感想を伝えておいた。
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