第96話 幼女が思いつきそうなセリフ
「か……か……可愛すぎます!」
緊急ミーティングを開いた。
机のど真ん中に幼女エリシアが座っており、グレイ、ネロ、レベッカ、ファーランが囲んでいる。
「まず俺の意見を述べさせてもらうと、エリィは体調不良ということにして、面会謝絶の札を出しておこうと思う。とりあえず一週間くらい予定をキャンセルしよう。……て、聞いているのか、お前たち」
かと思いきや、まったくの見当違いであり、グレイは肩透かしを食らった気分になる。
「エリシアにもこんな時代があったねぇ〜。あの頃は我がままで、毎日のように泣いていたねぇ〜」
レベッカが母親の顔になっている。
「エリシア嬢、メチャクチャ
ネロが物騒なことを抜かす。
「とにかく可愛いのです! 私のニヤニヤが止まりません! 生きている人形じゃないですか! この子を私にください!」
ファーランもファーランじゃなくなっている。
「エリィ、お腹空いちゃった〜」
「後で何か食べにいきましょうね。城下町でモーニングしましょうか」
グレイは口の中の水を吹きそうになる。
「おいおい、待て待て……小さくなったエリィを城下町へ連れ出す気かよ」
「こんなに愛くるしい子を王宮に閉じ込めておくなんて虐待なのです!」
ファーランが謎の主張をすると、
「閉じ込めておくなんて虐待なの!」
エリシア本人も便乗してきた。
しゃべり方まで幼くなっており、ペースを狂わされたグレイはやれやれ顔になる。
「しかし、服をどうする? メイド用か庭師用なら子供の服を貸してもらえるかもしれない」
「チッチッチ。私にお任せください」
ファーランは大人用ネグリジェをまとったエリシアを抱っこすると、クローゼットの方で何やら作業する。
「できました!」
一枚布をワンピースのように巻きつけている。
ほう、と感心したのはレベッカ。
「昔のペンドラゴンで流行っていた格好だね」
トーガと呼ばれる服装だ。
今でも節制を重んじる哲学者が好んだりする。
「そういや、
とネロ。
「じゃ〜ん! リトル・エリシアなの!」
「そうです! リトル・エリシアです!」
エリシアが楽しそうに駆け回り、ファーランがもっと楽しそうに追いかける。
本物の姉妹みたいに。
「ねぇねぇ、グレイ、この子を私にくださいよ!」
「何する気だよ、ファーラン」
「私の弟子にします!」
「おい……」
無茶苦茶だなと思いつつエリシアを見ると、
「エリィ、ファーランのお弟子さんになる。ファーランと一緒に龍騎に乗りたい」
本人だって
「世界を一周しましょうね〜」
「ね〜」
「本当に自由だな、お前たち」
(緊張感の
まあ、いいか。
数日したら元の体に戻るだろう。
リフレッシュの休暇と思おう。
エリシアは十八歳だし、まとまった休みも必要だろうし、今なら歳の近いファーランもいる。
ミスリルの魔剣士という地位から解放されて、普通の女の子みたいに過ごす時間も悪くない。
「とりあえず、エリシアが持っていた業務の分担について話し合おう」
「それなら私とネロでなんとかするよ。勝手を知っている」
「えっ〜⁉︎ オイラも⁉︎」
「あんたが最年長でしょうが、ネロ年輩」
「へいへい……」
エリシアはクッキーをつまむと、
「これはネロにしか頼めないスペシャル任務なの!」
「可愛いな、おい。この人たらしめ〜」
「えっへん!」
エリシアの頭をナデナデしたネロは、
「名前をどうする? エリシアと呼ぶのはマズくないか? メジャーな名前とはいえ、顔つきがエリシア嬢だからな」
この男にしては鋭いことを言った。
「そうですよ、エリシア。自分の名前なのですから自分で決めましょう」
「エリィが決めていいの?」
「もちろん!」
唇に人差し指を当てた幼女は、
「チョコレートを食べてこの体になったから、チョコって名前にしようかな。あ、でも、やっぱりエリシアのままでいい。だって、エリィ、自分の名前が好きだもん」
と八歳の女の子が思いつきそうなセリフを言い放った。
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