第83話 魔剣士が四人いれば楽勝

 派手に決まったな、と思った。


 グレイだって高火力を叩き出そうと思えば叩き出せる。

 仲間たちの前で、七大厄災パガヌスを相手に証明できたことは、一つの自信をくれた。


「やるじゃねえか、グレイ」


 ネロの左腕が紫電をまとっている。


「じゃあ、次はオイラの番だな」


 十八番おはこ雷公鞭サンダー・ボルト

 なのだが、通常バージョンと異なる。


 ドラゴンの頭が二つあるのだ。

 発動までチャージを必要とする代わりに、純粋に威力が上がるという強化版。


「食らいやがれ!」


 双頭の雷公鞭サンダー・ボルト・ツイン

 二つの雷撃が左右から着弾。

 ダメージが回復していないドラゴン・イーターの頭部を完全に吹き飛ばした。


 しかし、楽に死んでくれないのが七大厄災パガヌスという生き物。

 傷口の細胞がブクブクと膨らみ、再生しようと頑張っている。


「次は頼んだぜ、レベッカ」

「任せておきな」


 レベッカは胸の前で魔剣をクロス。

 魔法陣が浮かび上がり、ターゲットに狙いを定める。


「私は火加減が苦手でね」


 レベッカの手元から放射された魔王炎メガフレアは、ドラゴン・イーターの体内に突き刺さり、内側から全身の肉をドロドロに溶かした。


 これで下準備は整った。

 十分なダメージを蓄積させた上、全身をバラバラに裂けば、いかに七大厄災パガヌスといえども、再生することは不可能。


「任せたよ、ファーラン」

「はい、完ぺきに仕留めます」


 ファーランが愛馬の腹を蹴る。

 金色の光が空中にアーチを描く。


 心を一つにした人と龍騎は、ありったけの力を魔剣に乗せて、モンスターに叩き込んだ。


 一気通貫メテオ・ストライク

 食竜蟲しょくりゅうちゅうの三分の一を外殻ごと吹き飛ばす。


 残ったドラゴン・イーターの体がバランスを崩すが、ファーランは落下地点に先回りする。

 頭上で魔剣コクリュウソウを回して、螺旋らせんのような斬撃を叩き込む。


 海底摸月テンペスト・ドライブ

 さらに三分の一をバラバラに斬り裂いた。


 ファーランは追撃の手を休めない。


 タンッ! タンッ! タンッ! と。

 空中に飛び散ったドラゴン・イーターの外殻を足場として、龍騎の向きを変える。


 ファーランが魔剣コクリュウソウを振りかぶる。

 上から下へ繰り出す分、タイミングはシビアだが、その分威力は跳ね上がっている。


 嶺上開花アストラル・ブレイク

 青白いオーラをまとった魔剣は、三日月のような斬撃を叩き込み、再生しようともがいていたドラゴン・イーターを端微塵ぱみじんに吹き飛ばした。


 血と瘴気しょうきが舞う。

 技の反動で上昇気流が生まれて、空へ空へと吸い込まれていく。


 七大厄災パガヌスを仕留めた。

 アヴァロンに次ぐ脅威レベルのモンスターを狩った。


 グレイ一人ならともかく、魔剣士が四人もいれば当然の結果だろうが、嬉しいものは嬉しい。


「息がピッタリだったな。さすがレベッカ」

「グレイもね。ファーランの連続技も見事だった」


 レベッカとタッチを交わしておく。


「エリィなら一人でも楽勝か」

「だからこそミスリルの魔剣士なんだよ、あの子は」


 エリシアは今頃何しているだろうか。

 王都ペンドラゴンの方角を見上げつつ、額に浮いている汗をぬぐった。


 ……。

 …………。


 数日前。

 王宮のベッドでゴロゴロするエリシアの姿があった。

 かたわらには魔剣アポカリプスが立てかけられており、隣室へと続くドアが開いている。


「やっぱり、師匠の部屋はいいですね〜。師匠の匂いがするのです〜」


 鼻まで布団に潜っていたエリシアは、ハッとしてベッドから抜け出す。


「違いますよ! これは必要な儀式なのです! 私は寂しいと死んじゃうのです! なので師匠のベッドで生きる気力を取り戻しているのです!」


 魔剣に向かって弁明するも、無反応なので肩を落とす。


「はぁ〜。早く機嫌を直してくれませんかね〜。毎日ナデナデしているのに〜」


 エリシアは鳥かごを抱いてバルコニーへ出た。

 そろそろレベッカの安否報告が届くはず。


 やってきたのは赤い鳥。

 しかも四羽だったので天使のような笑みがこぼれる。


「青い鳥が飛んできた日は冷や冷やしましたが、無事に乗り越えてくれて、一安心なのです」


 ねぇ、アポカリプス?

 呼びかけてみたが、無反応だったので、しかめっ面になるエリシアだった。


「この……イジワル」

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