第82話 爆葬の百本槍《ボム・デストロイ》

 暴竜ディアノスの卵を食べて、気合いも魔力も高めた一行は、傾斜のあるゴツゴツした荒地へやってきた。


 目につくのはドラゴンの巣。

 木の枝で作られたもので、大きさは人間のベッドくらい。


 グレイは首を傾げた。

 繁殖シーズンにもかかわらず、放置された卵はひび割れて腐っており、親の姿が見当たらない。


「ここがギガラプトルの営巣地の一つですが……」

七大厄災パガヌスが食い荒らしたというわけか」


 ネロは大きな岩にジャンプすると、口に手を当てて、


「お〜い! 誰かいるか〜!」


 と荒野に向かって呼びかけた。


「バカなやつめ。自分をエサにする気か」

「しかし、ネロが叫んでくれたお陰で、私たちの気配は目立ちません」


 グレイ、レベッカ、ファーランは別の岩陰へと移動する。

 いつでも戦えるよう、魔剣に手を伸ばし、モンスターの気配を探してみる。


「ドラゴンの一匹もいないのか! いたら返事をしてくれ!」


 人語を理解したわけじゃないだろうが、ギャァ! ギャァ! というギガラプトルの鳴き声が返ってきた。


「ファーラン、何か見えるか?」

「ちょっと待ってください」


 もっとも視力の良いファーランが、手を筒のようにして、鳴き声の出どころを探す。


「見つけました。ギガラプトルが卵を温めています。メスですね。近くにオスがいて、周囲を警戒しています」

「よし、徐々に近づいてみよう」


 ネロに合図を送った。

『俺たちはあそこの岩陰に向かう』と。

 グレイの意図を理解したネロも、大岩から大岩へとジャンプする。


残酷ざんこくな作戦ではあるが……)


(ギガラプトルをエサにして、七大厄災パガヌスの出現を待つべきか)


 敵の姿が見えない以上、下手に動きにくい。


 ゴロゴロゴロッと岩の崩れる音がした。

 最初は小さく、やがて地鳴りのように一帯が揺れ始める。


 二体のギガラプトルが周囲をキョロキョロした。

 彼らが警戒しているのは、グレイたちではなく、地面の下を移動している何かであり……。


「来るぞ」

「来るよ」

「来ますね」


 三人の意見が一致した時、ドンッ! と大きな土煙が上がった。


 手で顔面をガードする。

 ゆっくりと煙が晴れて、敵の全体像が現れる。


 姿はミミズやムカデに似ている。

 足が百本生えているのだが、一本一本が人間の大人くらいといえば、巨大さが伝わるだろう。


 この世でもっとも大きな虫。

 食竜蟲しょくりゅうちゅうドラゴン・イーター。


 体をくねらせて、巨大なアーチを描いた捕食者は、ギガラプトルに襲いかかる。


 二体を瞬殺。

 さっきまでギガラプトルだった肉体は、バキバキという音と共に、恐ろしい口に飲み込まれてしまった。


 ギガラプトルを平らげて、卵を押し潰したバケモノは、さらなる食料を探すべく、グイッと頭部を持ち上げる。


「こっちだ、デカブツ」


 ネロの流星弾コズミックが三回ヒット。

 しかし、ドラゴン・イーターはピクリとも動かない。


「どうしたのでしょうか? いくら外殻がいかくがぶ厚いとはいえ、ネロの攻撃に気づかないほど、鈍くはないでしょうに」


 ファーランの発言にグレイはハッとする。


「龍騎だ。あいつ、ネロの位置じゃなくて、ファーランが連れている龍騎の位置を探っていやがる」

「でしたら……」


 ファーランが敵に向かって愛馬を走らせる。


「私が注意を引きつけます。グレイは迎撃の準備に移ってください」

「分かった。俺の方へおびき出してくれ」


 ドラゴン・イーターが龍騎に気づく。

 百本の足で猛ダッシュし、頭から地面に突っ込む。


 必殺の一撃は、大ジャンプにより避けられ、フィールドに大きな穴を残した。


 ならばとドラゴン・イーターは尻尾を向けた。

 槍のような岩を発射して、ファーランを仕留めようとするが、何回やっても残像を撃ち抜くだけに終わる。


「翔べ! ゼツエイ!」


 ファーランは手綱を強く引いて、グレイの方へ引き返してきた。

 ドラゴン・イーターも逃がすまいと追いかける。


 ここまで作戦通り。

 後は畳みかけるだけ。


「我が命を食らえ……魔剣グラム」

「オイラの命を食らえ……魔剣エルドリッチ」

「我が命を食らえ……魔剣コクリュウソウ」

「我が命を食らえ……魔剣イフリート」


 一番手はグレイ。

 頭上に魔法の槍を生み出していく。

 三十本、五十本、百本と。


 狙いはドラゴン・イーターの口。

 先に刺さった槍に、後続の槍がぶつかり、金属のチリを飛ばす。


 チリがどんどん充満していく。

 ラスト一本が点火のスイッチとなる。


ぜろ」


 槍と槍がぶつかり、大量のチリに引火して、爆発が爆発を呼んだ。


 爆葬の百本槍ボム・デストロイ

 火山のような黒煙を噴いたドラゴン・イーターの口内は、炎と金属片により血まみれと化している。


 グレイの攻撃はまだ終わらない。

 相手が怯んで動けないところに、横一文字の斬撃を叩き込み、頭部を真っ二つに裂いておいた。


「今度はお前が狩られる番だ」

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