第81話 斬り込み役と、フィニッシャーと

「おっ、見つけた! 激レア卵を発見! これを王都で売ったら、一年分の生活費になるんじゃね〜の!」


 ドラゴンの巣穴へやってきた。

 風通しのいい岩陰に、木々のバリケードが築かれており、動物の骨が散乱している。


 真ん中にあるのが暴竜ディアノスの卵。

 色はベージュ色で、黒い斑点はんてんのような模様がある。


「小さい卵を産むんだな。親がデカい割には」


 小さいといっても、グレイの腰くらいの高さはある。

 表面がザラザラしており、ほんのり温かい。


「ドラゴンの種によっては、卵に模様が付いています。カモフラージュのためと考えられています」


 ファーランは卵を愛おしそうにでる。

 早く食べたい! という感情が丸分かり。


「黄身と白身がありますが、圧倒的に美味しいのは黄身の部分です」


 生で食べてもイケるし、オムレツみたいに焼いても絶品らしい。


「卵って、なんで美味しいのかね〜」


 ネロが変なことを言い出す。


「卵がマズけりゃ、外敵もわざわざ狙わないだろう。美味しい卵を産むのって、メリットがなくね。ほとんど自殺行為じゃん。オイラが竜なら、マズい卵を産むね」

「確かに……子供が思いつきそうなことだが、真っ当な意見だ」


 この疑問に答えたのはファーラン。


「命は美味しいと、神様が決めたのです。お肉が美味しいのも同じ理由です。石ころがマズいのは、命が宿っていないから」

「お……おう」


 料理はファーランに一任した。

 まずは黄身と白身を分けるところから。

 殻にいくつか穴を開けて、白身を外へ捨てていく。


「卵の中身が減ってきたら、殻の上半分をスパッと割ります」


 魔剣コクリュウソウで一薙ひとなぎぎ。

 底の方にツヤツヤの黄身が眠っていた。


「戦いでエネルギーを消費したでしょうから。レベッカから食べてみてください。まずは黄身を生で飲みましょう」


 天然の栄養ドリンクといったところか。


「卵を生で⁉︎ お腹を壊さないのかい⁉︎」

「大丈夫です。新鮮ですから」


 王都ペンドラゴンには、生卵を食べる習慣がないので、レベッカも戸惑っていたが、そこは魔剣士。

 グイッと一気に飲む。


「これは……濃厚で美味しい。コクがあって、ほんのり甘い。ゼリーのようにツルっとしていて、喉越しも抜群だ。後味も悪くない。王都で長いこと暮らしているが、どんな卵より味がしっかりしている」

「でしょう、でしょう」


 美食家のレベッカは百点を与えた。


 ……。

 …………。


 焼きたてのオムレツを囲みながら作戦会議をやった。


「フェイロンの気配について、ファーランの魔剣は何か訴えているか?」

「そうですね……」


 ファーランが剣身にそっと触れる。


「強い鼓動のようなものを感じます。兄様に近づいているのではないでしょうか。この子も嬉しそうです」


 レベッカがソースの瓶を持っているので、少し分けてもらってから、グレイも卵を頬張る。


「ここまで人間の遺留品らしきものは出てこなかった。魔剣コクリュウソウが発見された現場にも。そして、もうすぐ……」


 グレイは地図の一点を示す。

 鳥竜ギガラプトルの営巣地だ。


「ギガラプトルは人里まで移動してきた。本来の住処すみかを追い出されたと考えるのが妥当だとうだろう。一番ありえるのが……」

七大厄災パガヌスが出現したと?」


 レベッカの問いにグレイは頷く。


「エリシアはまだ回復していないと思う。だが、七大厄災パガヌス一体くらい、魔剣士が四人もいれば造作ぞうさもない敵だろう。もし七大厄災パガヌス痕跡こんせきを見つけたら、おびき出して殺しておきたい」


 そいつがフェイロンを倒した張本人かもしれないと思うと、グレイの拳にも力が入る。


「三人にお願いがあります」


 ファーランは口の中身を飲み下し、胸元をトントンする。


「ギガラプトルの営巣地に七大厄災パガヌスがいた場合、トドメは私に譲ってください。そいつが遠因となり、今回たくさんの人間が死んでいます。同胞への手向たむけとします」


 レベッカはイエスと返す代わりに、後輩の頭をナデナデした。


「フィニッシャーとしての能力はファーランが一番だろう」


 グレイも同意する。


「最初に斬り込むのは俺に任せろ。耐久力はこの中じゃ俺が一番だ。ネロとレベッカには追撃を頼みたい」

「任せとけって」


 ネロが木の枝を拾って文字を書く。

『グネレファ同盟』と。


「おい、聞こえているか、フェイロン。お前が始めた同盟ごっこ、今でも生きているからな。今回はお前の妹が加わった。すぐ見つけてやるから、首を洗って待っておけ〜」

「おい、ネロ、首を洗って待つの意味が違う」


 同盟ごっこが何なのか、ファーランは詳しく知りたがった。

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