第74話 レベッカお手製の魔法道具

 落ち込むエリシアを元気付けたのは、思いがけぬプレゼントだった。


「今日のために用意してきた物だ」

「鳥かご……ですか?」


 レベッカがテーブルに置いたのは、一見、何の変哲へんてつもなさそうなペット用ケージである。


 手作りらしい。

 もちろん、小鳥を飼ってリラックスしろ、という意味じゃない。


「エリシアが合流するにしても、現在地が分からないと無理だろう。私たちは毎日移動しているからね。これはエリシアと私たちを結ぶ魔法道具マジック・アイテムなのさ」


 レベッカは部屋の端まで移動すると、左手にふうっと息を吹きかけて、火の鳥を生み出す。


 大きさはツバメくらい。

 尻尾しっぽも二股に分かれている。


 手から飛び立った火の鳥は、生き物みたいにつばさを動かして、鳥かごに着地を決めた。


魔法道具マジック・アイテムバードハウスだ。私たちの安否を伝える手段として、これを持っていなさい。火の鳥が飛んできた方角に私たちはいる。もしエリシアが合流する場合、火の鳥がやってきた空を目指すといい」


 淡いブルーの瞳がきらめく。


「素晴らしいです! さすがレベッカです! 大切に使わせていただきます!」


 レベッカは簡単なレクチャーを済ませる。


 鳥かごは自由に持ち運んでいい。

 入口は開けておくこと。


 ケージに到着した火の鳥は一定時間で消える。

 どんな悪天候だろうが、火の鳥はケージを目指して飛び続ける。


 鳥かごには魔法がほどこされており、レベッカの生み出した火の鳥だけが、ゴール地点として利用できる。


 魔法道具マジック・アイテムとしての効力は日々衰えていく。

 半年くらいなら問題なく利用できるが、それ以上は魔力の再チャージが必要となる。


 火の鳥には二種類ある。


『問題なし』を意味する赤い鳥。

『異常が発生』を意味する青い鳥。


「私たちの誰かがピンチにおちいったら、この青い鳥を飛ばす。問題が解決したら、赤い鳥に戻す」


 レベッカは青い鳥を一羽飛ばしてみせる。


「何か質問は?」

「はい! 一日に何回くらい鳥を飛ばしてくれるのですか?」

「そうだね。飛ばしすぎても、目障めざわりだろう。起床時、太陽が真上にある時、就寝時。この三回は必ず飛ばすようにするよ。目安としては一日七回くらいかな」

「レベッカが火の鳥を飛ばしてくれるの、楽しみに待っていますね!」


 レベッカは微笑ほほえみ、赤い鳥を生み出した。


「視界に映る範囲なら、自由に操作することができる」


 エリシアの周りを旋回させた後、バードハウスに着地させる。


「本当に生きているみたいです! 魔法の鳥とは思えません!」

「頑張って魔剣と仲直りするんだよ。この国にはエリシアの力が必要なのだから。もちろん、私たちも必要としている。エリシアなら立ち直れると、私たち全員が信じているから」

「ありがとう、レベッカ」


 二人は別れを惜しむようにハグを交わした。


「フェイロンの捜索、たくしましたよ。矛盾しているようですが、無茶はしないで」

「エリシアは本当に良い子だね。こういう時くらい歳上の人間を思いっきり頼りなさい。魔剣士の中では、エリシアが最年少なのだから」


 グレイ、ネロ、ファーランもうなずいておいた。


 エリシアは「途中まで見送る」と言いつつ、しっかり城門の向こう側まで着いてきた。


 ……。

 …………。


 移動時間を節約するため、ファーランが手を打ってくれた。


「故郷から龍騎りゅうきを呼び寄せています。人に慣れている個体なので、乗馬の経験者なら、問題なく乗りこなせるでしょう」


 一番大きいのがファーランの愛馬。

 他に若そうな個体が三頭いる。


「おお、すげぇ。龍騎に乗れるとかレアじゃん。オイラは一番小さいやつにしようかな」


 さっそくパートナーを決めたネロが、ファーランの方へ向き直る。


「龍騎ってプライドが高い生き物なんだろう。牙がギザギザしてるけど、人に噛みついたりするの?」

「この子たちは大丈夫です。生まれた時から人間と暮らしていますから。人間を食べても美味おいしくないと、ちゃんと学習しています」

「なるほど、なるほど。龍騎にとって人間の味は微妙なのね」


 ネロの手が宝石のようなボディに触れた。

 よろしくな、と。


「今日からお前はネロ号だ。期待しているぜ」


 変な名前をもらった龍騎は、ザラザラの舌でネロの顔面をめまくり、唾液だえきまみれにした。


「良かったですね、ネロ。名前を気に入ったようです。あなたと龍騎は心が似通っています」

「おい……こいつもクソガキかよ」


 ネロは左手で水玉を作って、顔面をゴシゴシする。


「残った二頭、グレイが好きな方を選びなよ」

「じゃあ、大きい方を借りるか」


 グレイも龍騎の首筋に触れてみる。

 仲間と認識してくれたらしく、硬い鼻でツンツンしてきた。


「なあ、ファーラン。龍騎に乗るにあたり、注意することはあったりするのか?」

「いえ、特にないですが……」

「何でもいい。一個くらいはあるだろう」

「う〜ん、角には触れない、くらいでしょうか。落馬しそうになって、うっかり角を握ってしまうと、次の瞬間には角が体を貫いていると思ってください。空中で串刺しにされます」

「ヤバそうな絵面えづらだな」

「古いことわざに、龍騎の角を握っていいのは、死ぬ覚悟がある者だけ、というのがあります」

「おう……参考になる」


(もしかして、ファーランって、天然なのだろうか?)


 グレイは変な汗をかきつつ、龍騎の背にまたがった。


「目線が高いとテンションも爆上げだよな。巨人になった気分だぜ」

「クソガキだな、ネロは」

「ケッケッケ……」


 いよいよエリシアと別れる瞬間がやってきた。


「愛すべき上官に一回目の安否報告だ」


 レベッカは火の鳥を飛ばすと、四人の周りを一周させてから、エリシアの抱えるバードハウスに着地させる。


「はい、報告を受け取りました。問題なしの赤い鳥です。次の報告をお待ちしております」


 エリシアが笑って手を振ってくれる。


「それじゃ、フェイロンを探してくる。俺たちもエリィを応援している」

「はい、いってらっしゃいませ〜」


 いざ、ドラゴニア地方へ。

 ファーランを先頭にした四騎は、地平線に向かって駆け出した。

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