第36話 じゃ〜ん! 師匠が生き返りました!

 買ったばかりのプレゼントをもう一度見つめた。

 我ながら良いお金の使い方をした、と自画自賛したが、すぐに隠した。


「あれ? エリシア嬢じゃねえか?」


 大聖堂の横を通った時……。

 ネロが庭園にいる三人を指差す。


 二人はエリシアとレベッカだ。


 残りの一人。

 ブラウンの髪色をした五十代と思しき男性が分からない。

 金糸をあしらった法衣を着ているから、聖教会の関係者で、かなり高位の人物なのは見てとれる。


「何話してんだろ。ちょっと聞いてみようぜ」

「おい! ネロ! やめておけ!」


 戦友を呼び止めたが、これは悪手あくしゅだった。

 グレイの声に三人が反応してしまう。


「あら、師匠、こんなところで会うなんて奇遇きぐうですね」


 グレイを見つけたエリシアがニパァッと笑う。


「悪党をやっつけたと聞きました。師匠のお手柄だったと」

「いや、大した活躍じゃない。相手が逃げようとしたから、拘束して警察ウィギレスに突き出しておいた」

流石さすがです。師匠の魔法は器用ですからね」

「まあ、小回りは利くな」


 弟子に褒められたグレイは照れる。


「あ、そうそう、挨拶しておきましょうか」


 エリシアが男性を紹介してくれる。


「セントエルモ教の大祭主、クロヴィス殿です」

「お初目にかかります、グレイ殿。英雄にお会いできて光栄です」

「こちらこそ、クロヴィス殿」


 タカのように鋭い目をしており、ヒゲを短く切りそろえているから、軍人のように精悍せいかんという印象を受ける。

 事実、握手した手はゴツゴツしており、苦労人なのが伝わってきた。


 クロヴィス……。

 知らない名前だ。


 この十年でスピード出世したのだろう。

 五十代で大祭主になるのは若い方だ。


「今日はどうして聖教会に? エリィの石像の出来をチェックしにきたのか?」

「そうじゃなくて……」


 レベッカがエリシアに目で合図する。


「じゃ〜ん! 師匠が生き返りました!」と。

 エリシアは一束の書類を突き出してきた。


「生き返った?」

「ほら、師匠って死亡認定されているじゃないですか。それを取り消してもらうために、あちこちの機関を回ってきたのです。レベッカと二人で」

「ああ、俺のために」

「当然です!」


 行方不明の人物が数年後に見つかる、という事件はたまにある。

 漁師とか、冒険家とか、家出した少年とか。


 しかし彼らは歳を取る。


 グレイの場合はレアケース。

 普通の手続きなら三十七になるところを二十七にするため、たくさんの面々と調整してきたらしい。


 税金とか。

 十歳違うと計算も違ったりする。


「クロヴィス殿も協力してくれました。顔が利きますから」

「協力して当然ですよ、エリシア殿」


 役人の中には信徒が多い。

 大祭主クロヴィスはペンドラゴンで一番頼りになるパートナーだろう。


「しかし、壮観ですな」


 クロヴィスが人の良さそうな笑みを浮かべる。


「グレイ殿はほとんど魔剣士のようなもの。三人同時にお会いできるとは」


 黙っていないのは頭数から外されたネロだった。

 とう! といって大祭主クロヴィスのお尻に頭突きを食らわせる。


(こいつ⁉︎ 本当にお行儀が悪い! クソガキめ……)


「おいおい、オイラを見落としてんじゃねえよ、クロヴィス先生」

「その声……その目……もしかしてお前……」

「仕方ねえ。とっておきを見せてやるか」


 ネロは両の頬っぺたに人差し指を添えると、


「か〜わ〜い〜い〜?」


 と甘えるような声を出した。

 驚いたクロヴィスが仰反のけぞる。


「まさか、ネロか⁉︎」

「そうだよ」

「お前のこと、変なやつだとは昔から思っていたが、女装するようになったとは⁉︎ 国を支える魔剣士のくせに痛ましい!」

「違いますよ、クロヴィス殿」


 横からエリシアがフォローする。


「私の指示です。今のネロは頼れる最強メイドなのです。今日もお手柄をあげました」

「そうでしたか……」


 褒められて機嫌を良くしたネロは、


「か〜わ〜い〜い〜?」


 の美少女ポーズをグレイにも見せつけてきた。


「はいはい、可愛いよ。三十七のおっさんにあるまじき愛嬌あいきょうだよ」

「ケッケッケ……グレイが素直に褒めてくれるなんて、珍しいじゃねえか。明日は空からキャンディーでも降るのか。パーティーだな」

「子供かよ。キャンディー食いたいなんて」


(楽しそうに生きる天才だよな、この男……)

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