第32話 エリシア対アヴァロン戦の様子は?
雑貨屋の入口には『もうすぐ建国祭』のポスターが貼られていた。
「お、新しいメイドさんかい。若いのに偉いねぇ。少しオマケしといてあげるよ」
「えっ⁉︎ 可愛いって言いました⁉︎」
「可愛いとは言ってないが、うん、見た目は普通に可愛いね」
「採点するとしたら何点ですか〜?」
「そりゃ、百点だよ」
「やったね!」
ネロがドヤ顔を向けてくる。
(こいつ……女装したのを良いことに、好き勝手しやがる)
ここは城下町の市場だ。
ネロが持ってきた買い物リストの商品を片っ端から買いそろえている。
「これで大体そろったかな。あとは良い匂いがするキャンドルだな」
「何に使うんだよ」
「エリシア嬢の部屋に置くのさ」
「ああ……」
繰り返しになるが、グレイが魔剣士だった十年前より、城下町は景気がいい。
通行人にぶつからないよう注意しつつ、ネロと一緒に次のお店へ向かった。
「あっ! 王宮のメイドさんだ!」
お客の少女が寄ってくる。
「可愛い!」
「おやおや〜。君は将来、メイドさんになりたいのかね〜」
「うん! なりたい!」
茶目っ気のあるネロは一回ターンしてからスカートを
あまりの美しさに、周囲にいた買い物客まで注目する。
「お姉ちゃん、美人さんだね。脚もきれい」
「君もね」
すっかり機嫌を良くしたネロは、買ったばかりのお菓子を少し分けてあげる。
「バイバ〜イ」
「またね〜」
手を振り合うネロと少女。
「お前って昔から小さな子供に好かれるよな」
「子供はピュアだからね。心がきれいな大人を見抜くのさ」
(いやいや、ネロも
知らない方がいい真実なので伏せておく。
「念のために確認だが、買い出しのために俺を連れ出したわけじゃないだろう。王宮の外でしたい密談でもあるのか」
「お、さすが元オリハルコン。察しがいいね」
「このくらい当たり前に気づく」
次にネロが案内してくれたのは一軒の飲み屋。
お店はシーンと静まり返っている。
しかし、ネロは普通にドアを押した。
「おい、お客さん、まだオープン前だよ」
「マスター、二階を貸し切らせてもらうぜ」
「別にいいが、開店までには出ていってくれよ」
と苦い顔になった。
「飲み物を二つ。お任せで。仕事中なのでアルコールは抜きにしてくれ」
グレイはオーダーを告げてからカウンターに金を置く。
マスターは淡いため息をつきながら金を受け取る。
階段をのぼった。
二十名くらい収容できそうな空間を若いスタッフが掃除していた。
「少しお邪魔するよ」
二人用のテーブルに腰かける。
白髪美少女メイドと、ゴツい剣士の組み合わせを、スタッフは不思議そうに見つめた。
「まずグレイに情報共有しておかね〜とな。お前がいなかった十年間の戦果ってやつをよ」
「いつか聞こうと思って忘れていた」
アヴァロンは厄災の王。
しかし、アヴァロンだけが厄災じゃない。
「エリシア嬢がアヴァロンを倒しただろう。一回死んだから、次のアヴァロンが出てくるまで、二十年とか三十年はかかるだろうな」
「その日までには次の世代を育てて引退したいな。それで? エリィのアヴァロン戦、どんな様子だった?」
「そりゃ、すごかったぜ」
ネロは両手を広げる。
七日七晩。
エリシアは一方的にアヴァロンを裂いたり、潰したり、串刺しにしたらしい。
相手が再生できなくなるまで何度も、何度も、何度も。
「近くにはオイラやレベッカが待機していた。エリシア嬢が
戦闘の後、エリシアは
次に目覚めたのは七日後だった。
当時、オリハルコンの魔剣士だったエリシアは、地位を返上して、以後ミスリルの魔剣士を名乗っている。
「言い方は悪いが……」
そう前置きした上で、
『あの時のエリシア嬢はノッていた』
『高い集中状態に入っていた』
とネロは打ち明ける。
「七日七晩か。我が弟子ながら恐ろしい」
「グレイだって三日三晩戦ったって話だろう」
「俺には魔剣グラムの加護があった」
「それを言ったら、エリシア嬢には魔剣アポカリプスの加護があった」
「確かに……。魔剣アポカリプスか」
三代目ミスリルの魔剣士の愛剣で、気位の高いことくらいは、グレイでも知っている。
記憶違いでなければ、使い手が現れるのも三百年ぶり。
「エリィのアヴァロン戦は分かった。
別名、
アヴァロンに次ぐ脅威レベルがあるとされる魔物たちだ。
この国にいる七人の魔剣士は、
「すまん、グレイ」
なぜか顔を伏せるネロ。
「この十年、
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