第2話 内覧
俺は該当の物件の住所を調べて、駅からのルートなんかを地図で見てみた。
駅から5分で、うちの4分に比べて1分しか違わない。
駅を挟んで南側と北側。
うちは駅を中心に東側で、あっちは西側。
うちの方がちょっと都心よりか。
それから数日後、俺は担当のA君と物件を見に行った。
「悪いね」
「いいんですよ。たまたまこの辺に物件見に来た人がいるんで。それに、もしかしたら、もう一軒購入ってこともあるし」
「そうだね・・・。また借金作っちゃうけどね」
その辺は1Kでも3,000万円以上するから、絶対買えないのだが、誰も借りないマンションというのを見てみたかったんだ。
「この辺はやっぱりサラリーマンが多いの?」
「はい。学生だとちょっと家賃が高いんで」
「まあ、この辺で10万払うくらいなら、下町に住んだ方がいいよね」
「はい。よっぽど忙しい人でなければ、そうなりますよね」
俺たちはメゾン・ド・千代田に着いた。
何の変哲もない・・・レンガ壁のマンション。
ちょっと外観が古いかな・・・という気はする。
でも、ツタが絡まっていたりしてお洒落な感じだ。
「いいね。こういうのが・・・女の人が好きそうだ」
「はい。奥に駐輪場があって・・・、宅配ボックスもあります」と、説明してくれる。でも、こういう設備があるのは普通だ。
有名な不動産会社の分譲マンションだった。
「オートロック。ポストとエントランスに防犯もカメラあります」
エレベーターは古かった。
「この辺は年数なりだね」と、俺は言う。「でも、賃貸だし・・・気にならないか」
部屋も見せてもらった。フルリフォームしていて、新築みたいにきれいだった。
「すごい金かけてるね」
「はい。キッチン、トイレは新品です。あと、ドア、クローゼット、床、壁紙、全部。」
「400万くらいかかってるかなぁ・・・。これで借りる人いなかったら悲惨だね」
俺は、オーナーが多少痛い目みた方がいいと思った。
人生失敗から学ぶことも多いからだ。
「これは売り出す前に直したの?」
「はい。だから、お金かけたみたいなんですけど・・・1年売れなかったんで」
「前の借主は何年くらい前に出たの?」
「2年前です。1年ずっと空いてて、売りに出して1年ってところです」
「事故物件なんじゃないの?」
「いや・・・そうじゃないみたいです。前の人は10年くらい住んでたんで。でも、占いをやってた人みたいで・・・ちょっと怪しい感じの人だったそうです」
「ふうん」
「どうですか?」
「これでいくら?」
「江田さんのことをオーナーに話して、事業用で探してるって言ったら、8万円でってどうですかって言われたんですけど」
「へえ、随分下がったね。やばいなぁ・・・借りたくなってきちゃったよ・・・」
俺は何を思ったか、申込書を書いてしまった。
前から、起業したいと思っていたから、そこをオフィスとして登記して、それに女の子とデートする場所としても使えそうだった。
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