賃貸マンション
連喜
第1話 賃貸マンション
これは、不動産に関する話。
俺は1Kの賃貸マンションのオーナーだ。東京都千代田区の一等地。
偉そうに言っても、持ってるのは一部屋だけだけど。不動産屋に客付けと管理を頼んでいるから、10年くらいの付き合いがある。俺のマンションは異常に入れ替わりが激しい。
でも、広告を出す前に決まってしまうことが多い。担当の人から「江田さんの部屋は本当に足が速いですね。もう決まりました」と、毎回驚かれる。今まで1ヶ月丸々空いたことはない。
「○○君の腕がいいから。助かるよ。1ヶ月空いちゃうときついから」
俺はもう住宅ローンを完済しているけど、不動産投資ローンを借りて、賃貸して、利益を出そうとしてる人ならかなり痛いだろうと思う。俺は元々自分で住んでた所を貸してるだけだけど。
「でも、場所がよくても、全然決まらない部屋っていうのがやっぱりあるんですよ・・・」
「へえ、どんなとこ?」
俺は人の不幸が好きだから、興味本位で尋ねる。その物件は俺のマンションと同じ駅。何の変哲もない1Kの間取りなのだが、なぜか申し込み後に何度もキャンセルが出てなかなか埋まらないそうだ。
俺のもあちらのも同じ1K。俺の物件は築20年くらいだけど、あちらは30年経ってる。エントランスの感じとかが古いのかな・・・なんて思っていた。それで尋ねてみたら、「そうでもないんです。結構キレイなんですよ」
試しに、何ていうマンションか聞いてみた。
一応、メゾンド千代田(仮)804号室としておく。
1Kで広さは25㎡。玄関から続く廊下にキッチンがあって、風呂とトイレが別。
廊下の突き当りにある居室は大体7畳くらい。家賃は10万くらい。
俺の所とほぼ同じ条件だ。
「オーナーってどんな人なの?」
「ここだけの話ですけど、個人でマンションをたくさん持ってる人です」
「へぇ」
いいなぁ、と思ってしまう。
「いくつくらいの人?」
「30代後半くらいで・・・まだ若い人です」
若くて俺より稼いでいるやつはむかつく。ずっと空いてればいいと思う。
「もう2年前から空いてて。空いてるうちに売ろうとしてたそうですが、なかなか買い手がつかなかったそうです。1年くらい頑張ったみたいなんですけど。借りたい人がいたら、オーナーチェンジ物件(借主がいる状態で売ること)として売るから広告打ってください、って言われたんです」
「見に来る人いるの?」
「はい。でも、他と比べて値段が安いわけじゃないから、大体、別の所に決まっちゃうんです」
「へえ。何が原因なんだろうね。今度、見せてもらえない?」
その人は最初「え?」って顔をしていたけど、「いいですよ。もし気に入ったら買うこともできると思うんで」と快諾してくれた。
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