第3話 怨霊さんのお片付け
誰もいなくなった陽斗の部屋。その部屋の中では、物が勝手に移動したり、ドアが開いたり。俗に言うポルターガイスト現象が、あちこちで同時に起きていた。
とは言っても、ものをひっくり返したりするような普通にイメージするようなものじゃなく、どちらかと言うと、綺麗に配置するような動き方をしているのだが。
「あれはこっち。それは、うーん……ここでいいですかね?」
そして、そんな陽斗の家の丁度真ん中にある廊下に、長い綺麗な髪に真っ白なワンピースの少女がぺたんと座り込んで、そんなことを呟いていた。
ぼんやりと虚空を見つめているようにしか見えない透き通るような青色の瞳には、一体何が見えているのか。
「壊れてるものと壊れてないものの分類をして下さってたのが唯一の救いです。……うぅ、帰ってきたら謝らないと」
彼女の言葉に呼応するように、ポルターガイスト現象に勢いが上がっていく。
ここまで行動と周りの現象が合致すればわかるだろう。この清純可憐な美少女、先程二人の前から逃げたこの家に長年居座る怨霊である。
──────────
「終わりましたー!」
元気な声と共に腕を上げ、そのまま後ろに倒れ込むように寝転がる。
人間換算で筋肉ムキムキマッチョマン三、四人分の働きを同時に行っていた怨霊さん、疲労困憊である。
「なんとか帰ってくるまでにお片付けは終わりましたね……。しかし……」
ぐるりと見渡せば、住宅展示場のように整えられた家具と、その部屋に似つかわしくない処分、と書かれたダンボール箱の山。中身はお皿などの割れ物や電子機器など、買い直すには少し高い物が多数。
「私じゃ直せないし買い直すこともできません……」
怨霊さんが思い出すのはあの出来事。
誰が引っ越して来るのだろうかと待ち構えていたら、まさかの開幕で告白、求婚。生きていた頃を思い出しても全く経験のないパターン。
『俺とお付き合い──』
『生涯の伴侶に──』
「〜〜〜〜ッ!!!!」
本気の目で自分を見てきた陽斗を思い出して、ぼふん、と音を立てて顔を真っ赤にする怨霊さん。
一度思い出すと何度も何度も頭の中に浮かんでくるあの光景に、怨霊さんは床を転げまわって悶絶する。
「う、うううううぅぅぅぅ!! 痛っ!?」
案の定壁に激突して頭を強打。怨霊さん涙目。
「全部あの人のせいです!! 私の心の安寧が脅かされてるのも! 今頭ぶつけたのも! うぅ、痛い……」
プクッと頬を膨らませて、今はいない
「このままじゃダメです。堕落してしまいます……。何か、何か方法は……」
じっくり考えること三十秒。もうそれしか思いつかなかった怨霊さんの口から、会心の一手が──
「……そうです。それなら──あぁ!? ダメだぁ!?」
──出なかった。
「お友達からとか言うんじゃありませんでした丁重にお断りしておくべきでしたっ!!」
怨霊であるにも関わらず良心が働いてしまう怨霊さんには、お友達からと言った手前、物理的にも精神的にも陽斗を自分から引き離すことは無理だった。
「この家をお金を払って借りてる時点でこの家はあの人のものだし、逃げ場がないですよぉ……」
半ベソをかきながら立ち上がって、せめてアピールを控えてもらう手立てを、と思い紙に書き出すために、怨霊さんはリビングへと向かう。
今怨霊さんがいる廊下と、一枚のすりガラスの窓があるドアを隔てた先に、そのリビングがあるのだが、そのすりガラスから見える光景が、自分が直した部屋の様子と少しだけ違った。
「は、ははは……」
悪いこととは重なるもの。
冷静になってみれば、感情の操作ができなくて家の中を一瞬でひっくり返してしまったのだから、同じように騒いでたら同じような状態になるのは見えていた事だろう。
でも、そんな事を思っても後の祭り、怨霊さんの目の前には、また、ぐちゃぐちゃになった家具等々。
「やりますよ、ええやりますとも!! 帰って来るまでに全部綺麗にして謝罪文と意見書持って玄関で土下座で懇願してやりますからぁ!!!!」
陽斗達が家を出てから一時間半程が経過して、もういつ帰ってくるか分からない状況の中、怨霊さんのお片付けが今、始まった。
テンプレ怨霊は清楚だと思うんだけど間違ってるだろうか 白音(しらおと) @shiloneko-3
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