第26話 留学生

 最近Alyssaという海外の方からサイトにコメントが来る。

 要約すると、あなたのファンです。今度日本に行きます。会いたいです。というコメントでゲームのファンらしい。このアリッサという方は初期の頃からゲームを買い、感想などのコメントをくれた人だ。日本に来るんだという感想を浮かべる。どんな人なのかは興味があるけれど、海外の方なのかな。コメントは読むだけで返事も何もしない。昔の文面と今の文面のニュアンスが違う。会いたいと言っているのは別の人かも。

 文末の最後にいつもこの言葉がある。

 Elle était fascinée par la flame。

 ネットで調べたらおフランスの言葉らしい。

 教室でぼんやり窓の外を見ていた。朝の空気はひやひやしていて、見える灰色雲と雨。

 今日は転校生が来ると言うので教室の中はざわついていた。

 留学生。女の子だって。

 教室に来た先生と、その後ろには女子生徒が続いた。透明感のある長い金髪はふわふわ。肌は濃い褐色。制服の上に着たパーカーは少しハイカラだった。ハイカラってなんだ。制服の上にパーカー着てもいい事を立証してしまった。明日からパーカー増えそう。

 先生が留学生を紹介しはじめる。みんな興味津々で留学生は堂々としていた。

「アリッサ、言います。みなさん、よろしくーネ。好きな物はイチゴ。嫌いなものはドッグ、犬です。へへっ。私、ここ、あーにっぽん、来るのとても楽しみにしていまシタ。仲良し、仲良シ」

 基本スペック高そう、偏差値高そう、私とは縁が無さそう。みっつのそうが私を襲う。三高、三密ならぬ三そうが私を襲う。

 窓の外を見る。帰りに焼き芋買って帰ろうかな。とろとろやきいも150円。

 日本語がお上手ですね。とか先生が一言二言交わして、質問を少しして一限目が始まった。

 机の下に違和感、椅子を少し下げて見ると、黒くて赤い、犬、みたいな、変な生き物。

 全体的に四角いというのか、足が小さい。目がまん丸。ぬいぐるみみたい。

 手を伸ばすと、がぶり。

 うーん。

 手を伸ばすとがぶり。

 うーん。


 放課後になり、ヤンが教室に来た。

 この人、朝来て夕方まで寝ているらしい。お昼すやすやして夜眠れるのかな。だから夜に通話しっぱなしなのかな。あれ結構きつい。

「へっへっへ。部室行こうぜ」

「今日は図書委員の当番だから図書室に行かなきゃ」

「じゃあ図書室行こうぜぇー」

「ヤンてちゃんと寝てるの?」

「あー? 寝てるよ。何言ってんだか。目の下にクマでもできてるか?」

「ヤニついてる」

「タバコなんか吸うわけねーだろ」

 そのヤニじゃない。目ヤニの方。

 ヤンってちょっと化粧が濃い。お化粧の匂いがする。クリームとチークだけで十分ナチュラルだと思うけど。

「なんだよー。そんなに見つめるなよな」

「あのっ。へへっ。私も、行っていいでスカ? ライブラリー。図書館」

「あ? なんだコイツ」

 ヤンが私を見て親指を立てて指す。視線を向けると、アリッサ……さんと目が合う。私が説明しないとダメかもしれない。

「留学生の人」

「留学生? へぇ、何処から来た?」

「アリッサ、言いマス。ユナイテッド……あう、あの、アメェーリカからデス」

「へぇ。まぁいいや。今日の俺はご機嫌だからな。行こうぜ」

 図書館、ならぬ図書室へ向かう。私達の後をアリッサさんがついて来た。なんかおかしい。この構図がおかしい。横一列になるのは通行の邪魔になるし良くないけれど。

「アリッサ、さん。この人は、ヤンです」

「おぉ、はい、ヤン、さん。ないすとぅ……よろしくデス」

「いや、ヤンじゃねーよ。それあだ名だろ。いや、ヤンでいいけどさ」

 図書室に到着したので席に座り、貸出返却の作業をする。放課後図書室を利用する人はあまりいないので座って本を読んだりヤンとスマホでチャットしたりする。

 今日は雨なので、あの子がいるかなぁと思ったけれど、やっぱり彼女はお昼休みにしかいないみたいだ。

「どうして、ヤンは、その、メイク、こばい(濃い)でスカ?」

「コイツ何言ってっかわかんねぇ……」

 人はあんまりいないけれど、勉強をする真面目な人が来るかもしれないし、声を出すのはダメ。

 立ち上がり、二人の傍に行く。

「図書室では静かに。ルール」

「おぉ、そーりー。Elle était fascinée……?」

「あ?」

「Elle était fascinée?」

 アリッサが私を見ながらそう言った。

「par la flame」

 私に聞いているのかな。なんとなくそう続きを答えていた。

 意味は、彼女は炎に魅入られた。おフランスの言葉。

「にひっ。見つけたデス」

「コイツ、頭おかしんじゃねーか?」

「図書室では静かにしてください。みんなの迷惑になります」

「はぁ? みんなって誰もいねーじゃん。何言ってんだか。まぁわかったって人が来たら静かにしてやるよ」

「アリッサ、さんもです」

「おぉソーリー。ノープロブレム。わかりました。にひっ」

 黒い犬がいる。アリッサさんのペットだろうか。学校にペットはダメだと思う。

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