第24話 祖母②
若……様、ちゃん、様とは小学生の頃に知り合った。やっぱり祖母の命日に来て、その日だけ遊んで、そして帰った。小さい頃は庭で虫を取ったり、家の中を駆けまわったりしていたけれど、さすがにこの年になるとそんなことはできない。スカートだし。
制服姿なのは学生だから。特に何かあるわけじゃなくて、行事には制服で参加するのが校則だから。
若ちゃん、眉毛がひし形で太く黒い。書いてあるわけじゃなくて、目つきと相まって凛々しく感じる。
この一年、お嬢を忘れた日はなかったとか、お嬢を思っていましたとか、色々配慮して貰ってなんだか申し訳なかった。小学生の時もそうだけど私は友達が少ない。
今だってヤン以外とはあんまり話をしないし、こうして気遣ってくれるのに若ちゃんの優しさがにじみ出ているような気がした。
一年何をしていたとか、そういう話をしてくれた。剣道をしている若ちゃんの手は硬くてひび割れている。良く見ると腕の回りに擦り傷が多くて、若ちゃんは誇らしそうにそれを見せてくれた。包んでくれた手は炎のように温かく、トクトクと流れているのが伝わってくる。
とても、とても、言葉では表せないくらいとても尊い手だと思う。頬に当てた若ちゃんの手を両手で上から握る。手の匂い、頬に少し痛いササクレ、すごいな、若ちゃんはすごい。
「お嬢、頬が傷ついてしまいます」
ゴツゴツしていて傷だらけの手。傷口が開いて血が滲み頬に付いた。
「ごっごめんなさいっ。血が……」
「大丈夫」
救急箱を持って来て手当。水で洗い流して包帯を巻く。化膿止めとかアルコールとかを使うと免疫能力が下がるって聞いたから。
「ひどい手、ですよね」
「ううん」
「そうですか?」
「うん」
「嫌……じゃないですか?」
「嫌じゃないよ」
「あの、こっ子供の頃にした約束、覚えていますか?」
「あっはい」
それは……毎年言われたら忘れるわけもない。少ない友達だし、でも最近その願いを叶えるのは難しいと感じるようになってきた。
「私、頑張ります。頑張りますから」
そう言っている人に、無理しないでとか、言っていいのかどうか。
「そうですか」
どうしよう。
「その、やっぱり、嫌、ですか?」
顔に出てしまったかもしれない。嫌ではないけれど。
「嫌ではないですが、色々、相談して決めた方がいいと思います。双方のために」
「そっそうですか……。嫌じゃなくてよかったです」
若ちゃんが握っていた手に力を込めてくるのを感じた。
「あのっ、だっ抱きしめても、いいですか?」
「いいですよ」
女の子同士ですし。若ちゃんの手、手が服に擦れる感触、少し鉄の匂い、引き寄せられて。
「私が、私が貴方を守りますから」
若ちゃんの体は硬くてガッシリしていた。
何も言えなかった。若ちゃんには若ちゃんの、人には言えない家庭の事情のようなものがありそう。大人になったら一緒に暮らすという約束を何年も確認するぐらいなのだから、よっぽど家にいたくない事情があると思う。
初めて会った時、なかなか打ち解けられなかったけれど、最後はお家に帰りたくないと泣いていた。若ちゃんの家は厳しい家らしく、作法とか武芸とかそう言うのがとにかく辛くて嫌だって若ちゃんは泣いていた。手を見ればそれがどれほど厳しいものなのかある程度は察せられる。私だったら耐えられないかもしれない。
離れた若ちゃんの唇が少し震えていて、その癖は何年たっても変わっていなかった。
若ちゃんの手を取って頬に寄せる。
「若ちゃんの、この手、好きですよ。でも無理だけはしないでくださいね」
手の傷は血が止まりにくいしブドウ球菌とかがはびこるからね。
「くぅうううう」
そう言ったらもう一度抱きしめられた。
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