第16話 誕生日
私は誕生日が好き。
誕生日になると母がこれでもかと一緒にいてくれる。幼い頃からずっとそう。何が無くとも抱きしめてくれる。私は膝の上に座って頭を撫でられたり抱きしめられたり、耳掃除をしてもらったり一緒にお風呂に入って洗いっこしたり。高校生になった今でもそう。
夜になると膝枕をしてくれて耳を両手で包んで眠るまで撫でてくれる。誕生日だけの特別。でもないかもしれない。
父は誕生日になるとお金をくれる。
お金を手渡されて、どんな顔をしたらいいのか、ありがとうとお礼を言えばいいのか、それで父が喜ぶのか考えてしまう。母を思えば父には会い辛いし、父も、父の今の家族を思えば私に会うべきじゃない。母は私が父に会おうと気にしない。けれど父の家族は別。やっぱり気にしている。私は父に会うべきではないけれど父が望むのならば会わなければならない。そうでなければ母に責が及び面倒になる。少しジレンマ。
勘違いしないで欲しいのは、父が適当な気持ちでプレゼントをお金にしたわけじゃないということ。精一杯悩んで、私のために選んでくれたのがお金だってそれだけ。好きな物を買いなさい、あなたの自由に使いなさいとくれたプレゼントがお金だっただけ。
貰えるだけ幸せだってわかる。お金は大切なものだってわかる。でも気持ちが少し苦しい。
私を思い、愛してくれている父の誕生日プレゼントがお金なのは事実で、そして誕生日に目いっぱい傍にいてくれる母が、私を殺す妄想をしているのも事実だ。
今日はヤンの誕生日。花屋さんでシロツメクサを沢山買って冠を作った。
ヤンはどちらの反応を示すだろう。
まだもっと幼い頃、近所の子に折り紙で鶴を折りプレゼントした。けれどそのプレゼントは気に入って貰えず、拒絶されてしまった。多分、その子にとってプレゼントが気に入らなかったわけではなく私が気に入らなかったというのも今なら理解できる。
「誕生日おめでとう」
ヤンに冠をあげるとヤンは驚いた顔して、顔が、花みたいに、パッと緩みだして、冠を受け取ると、膝が震えていて、クリームの下でもわかるほど真っ赤になった頬を見る。耳まで赤くなっていく。
「へへっサンキュー。乗せていいのかよ。お前がこれをくれるってのはわかってたけどよ。それでも俺は、すげぇ嬉しいぜ」
制作場面見てたからね。本人の目の前でプレゼントを作るのはどうかと思ったけれど。
「プレゼントだからね」
「自作?」
「花以外はね」
さすがにシロツメクサを自作できるほどの生命の神秘は学んでいない。
冠を頭に乗せたヤンは、ちょっと可愛かった。
「お姫様みたい」
「お前の御姫様だからな」
ちょっとだけあの頃の私が、救われた気がした。
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