第12話 景色が違う


 路地裏にしゃがみこんで通行人を眺めていた。

「おめぇまさかタバコ吸う気じゃねーだろうな‼」

 吸わない。

「おめぇ未成年だろ‼ ぜってぇ吸うなよ‼」

 それ、逆じゃない。それ、貴方が言うセリフなの、か。どうなのか。

「体に悪影響でるだろ‼」

 少しだけ薄暗く、少しだけ湿っていて、少しばかりのぬめりがある。

 目の前を男性が通り奥へと消えていった。避けるように身を寄せるのを繰り返す。

「おい、聞いてんのかよ」

「ねぇ、見える?」

「はぁ? 何が?」

 私はある仮説を立てている。人は見えないものを自らの脳で補完して再現するのではないか。マスクをすれば、美男美女に見えるという現象は、他にもあてはまるのではないか。

「やったラッキー。百円みっけ」

「後で、交番よろっか」

「なんで?」

「お金拾ったんでしょ?」

「百円で交番なんかいかねーべ」

「何円なら行くの?」

「財布拾ったらいくわ」

 私には見えるものがヤンには見えてはいない。けれどヤンは風を避けるようにスカートを押さえてはいた。風も無いのに。見えはしないけれど干渉はある……のかないのか。

 そもそも私の視界が変なだけなのでは……。ノイローゼの可能性もある。理由は両親の離婚かな。自分が思っている以上に頭と心がおかしいのかもしれない。

「ここ、人殺しがあった場所なの」

「はぁ?」

 そう言うと、ヤンは訝し気な表情を浮かべながらも、体に緊張を見せた。殺人現場とは言うけれど、歴史を考えれば人が死んだ事の無い土地の方が遥かに少ない気がする。

 情報を少しずつ与えると、ヤンは最終的に女子高生の霊が何度も通ると言い出した。

 やっぱり人は、見えない物を自らの脳で見える物として補完する能力を持っていると思う。なぜなら死んだのは男の人の方だから。

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