第8話 古いしきたり
一か月に一度、持ち山に行かなければならない。
母は山を持っている。先祖代々から続き受け継がれてきた土地なのだそうだ。
どうしてこんな古めかしく色褪せた巫女の恰好をしなければいけないのか毎度疑問に思う。
ある程度までは車でいけるけれど、あとは歩いていかなければいけない。整備された道じゃないから車でもガタガタ。車を降りたら掃除道具を持って獣道を歩く。ブーツじゃないとぬかるんで大変。通り道に空き缶が落ちていた。
見えて来た建物は巨大な木々に囲まれている。多分衛星からでも発見は困難。
鳥居とは違う自然の石を積み重ねて作られた門。隅を通るけれど、母は堂々と真ん中を歩く。
奥にある木で出来た建物は、屋根が苔むしるほどには古い。
ここには、神様がいるという。
その神様は、人類が生まれる遥か前よりこの地にいると母が言っていた。だから人の姿をしていないんだって。
裏手にある井戸からバケツに水を汲み、建物の中を掃除する。周りは何処もかしこも木。木以外に何があるのか逆に聞きたい。少し冷たくて少し静。動物の声も聞こえない。建物の戸を全部開け放つ。天井から掃除。箒で埃を掃く。割と埃は少ない。いつも密閉しているからむしろ埃が入らないのだと思う。次いで壁を雑巾で乾拭き。最後に床を……靴の跡がある。
掃除が終わる頃には夜になる。
ルールは二つ。
ここに来る前々日から何も食べてはいけない。
母は私を置いて、手を振って、明日迎えに来るからと、山を下って行った。
最近、ここには、私達以外の人達が、勝手に入ってくる。困ったものねと母は言っていたけれど、でも拒んではいないのだそうだ。少し羨ましそうに言うのはなぜだろう。
明かり一つないそこで、部屋の真ん中で、大の字になって寝る。
空気は肌寒いのに不思議とぽかぽかと温かい。
うとうとうとうと、幼い頃はただ無邪気だけがそこにあった。
私が眠る頃それらはやって来て私を使い、私は身をゆだねて、ただそれに身を任せるだけ。やがて朝が来て、私はぱちりと目を覚まし、別に体に異常はなく、しいて言うなら少し筋肉痛。
母が迎えに来てそして帰る。
する意味はあるのか、聞いたことがある。何十年も断絶されたことがあるけれど、こうして復活しているのだから、そういうことなのでしょうと母は言った。お腹すいたでしょうと、お粥を渡される。このお粥、私の好物。ゆっくり食べなさいとそう言われる。その言葉と母の表情も私の好物。
赤の他人で試したことはあるのと聞いたら母は笑っていた。
壊れちゃうからダメだって。
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